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花火が上がる中、私は沖田さんをボンヤリと見ていた。沖田さんの目は上がっては消える花火を愛しそうにとろりと捉えている。

私が沖田さんの偽物の彼女でいるのは沖田さんの卒業までだろう。
来年はもう一緒にいない。
こうやって花火を見ることは二度とない。

やだな。
自分がこんなセンチメンタルな性格になると思わなかった。
どうしてせっかくの花火大会なのにこんなに陰湿でドロドロした気持ちになってしまうんだろう。

『次が最後の花火となりますーーー』

放送が流れる。
もう次で花火大会が終わる。

沖田さんとの一生に一度の花火大会が終わってしまうのは悲しかった。
しかしこの時間が何だかやるせなく、辛くもあったので同時に少しホッともしてしまった。

うつ向いていると「どうしたィ」と声をかけられた。

「なんでもないです‥」
「ほら最後の花火でさァ」

パァンと上がる赤い花火。今日の中で一番大きい。
しかしそれも消えてしまう。

「んっ」

花火大会が終わった。
沖田さんの睫毛が顔にふわりとかかる。

「帰るぜ」
「え、‥」

間違いだろうか。
いや、花火が消える瞬間、ほんの一瞬沖田さんの唇が私の唇に触れた。
今私は沖田さんにキスをされた。

「い、今‥」

沖田さんは何事もなかったかのように私の手を引き、人の流れにのって歩きだす。

「お、沖田さ‥」
「夏祭りにちゅーは付き物でさぁ」
「え、え‥」

だめだ。
私の気持ちは押さえ付けるのがもう既にギリギリだったのに。
こんなことをされては溢れてしまう。

色んな想いが頭を駆け巡る。
心臓が熱い。

「っ‥‥」

花火大会に来て、浴衣を着て、キスをされて、手を繋いで帰る。

嗚呼、なんて理想なんだろう。
でも違う。
だって私達は偽物だ。

沖田さんと私はこんなに近いのに、本当はすごくすごく遠いんだ。

その現実が辛くて涙が出てきた。

「な、泣くほど嫌だったかィ」

沖田さんは私の涙に気付いて慌てて立ち止まる。

「名前、ごめん」
「‥っ花火大会」
「え?」
「やっぱ‥来なきゃよかった‥」

ボタボタと次から次に流れる涙で沖田さんの顔は見えなかった。

自分の頬に溢れる涙の温度を感じながら、
心が溢れると涙になるんだな、とボンヤリ考えた。

やっぱり今日は来なきゃよかった。
もうはっきりと気づいてしまった。


私は沖田さんが好きなんだ。




つづく


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