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連れていかれた先は呉服店だった。
「花火大会と言えば浴衣だろィ」
そう言って沖田さんは「おばちゃんレンタルと着付け頼みまさァ」と店員さんに声をかける。
「え?え?」
「あら、高校生?いいね若くて。何色がいい?」
突然の展開に訳が分からないままおばちゃんに要望を聞かれる。
「え、えっと」
「この白いの着せてくだせぇ。帯はこれ。」
焦っていると沖田さんがおばちゃんに浴衣を渡
した。
「あぁこれ。いいね、似合いそう。やっぱり彼氏はわかってるね〜」
おばちゃんは笑いながら私を奥に案内し、浴衣をてきぱきと着付けてくれた。
「柄が上品だから大人っぽくなったね。似合ってるよ」
おばちゃんに褒められ鏡を見る。
沖田さんが選んでくれたのは白地に花の模様が広がる何とも綺麗で可愛らしい浴衣であった。
おばちゃんの言葉はどうせリップサービスだろう。
こんな素敵な浴衣が本当に自分に似合っているのかを不安に思いつつ、恐る恐る沖田さんのところに戻った。
「…あれ。沖田さんも浴衣…似合いますね」
沖田さんも浴衣に着替えていた。
先ほどの野暮ったく着ていた制服から一転、浴衣でパリッとした印象になった沖田さんは多分この世で1番浴衣が似合う男だろう。
不意打ちの浴衣なんて反則だ。
胸の鼓動が高まったが一生懸命気付かないふりをした。
「これは美男美女だねー!おばちゃん本当羨ましいわぁ。いってらっしゃい」
おばちゃんに見守られ店を出た。
カポンカポンという下駄を鳴らし二人で歩く。
何となく沖田さんが黙っているので私も黙って歩いた。
途中すれ違う人達が沖田さんを見てあの人格好いい、とコソコソ歓声をあげていた。
きっと一般的に格好いい彼氏は自慢なんだろうけど、沖田さんの場合は格好よすぎて隣を歩くのに何だか肩身がせまい。
歓声が耳に入る度に私程度の女が隣を歩いててすみません、と目線を下げた。
「座りなせぇ」
ベンチがあるところで沖田さんが口を開いた。
言われるままに座る。
沖田さんが選んでくれた浴衣を着てるわけだが特に沖田さんから何もコメントがない。やはりあまり似合ってないのだろうか。
変に着飾ってしまった自分をあまり見られたくない気持ちになる。早く日が暮れて暗くなってほしいと願った。
先ほどおばちゃんに言われた美男美女という言葉が何となくキリキリと私の心をしめつける。
「後ろ向きなせぇ」
そう言われ後ろを向くと沖田さんの手が私の髪に触れた。
「えっ?」
「動いちゃダメでさ」
沖田さんはパパっと私の髪をまとめて上でお団子をつくった。
なんでこの人こんなに器用なんだろう。
「あいよ」
鏡を見ると綺麗にまとめあげている。知らない
間にピンクの花のかんざしまでささっていた。
「……沖田さん、かんざし……」
「それはあげまさ」
「えっ」
驚いて沖田さんの顔を見る。
「浴衣、悪くねぇでさ」
「っ‥」
どうしよう。
自分でも音が聞こえるくらいに胸がドクンドクンと高鳴っていた。
私はその言葉が欲しかったんだ。
「……ありがとうございます」
こんなに胸が高鳴るのは人生で初めてだった。
私は知らない。
この先、沖田さんにドキドキしていって、私の身体は、心は、どうなるんだろう。
これは嘘なのに。
嘘の恋人なのに。
沖田さんはずるい。
ただの気まぐれで私の心を振り回す。
私はこの先一体どうしたらいいんだろう。
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