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次の日どこから入ったのかシロがオレの部屋にいた。


昨日は飲み過ぎた。
もう太陽は真上にあり、時刻は昼間を回っていた。二日酔いに頭を痛めながら今日が非番で良かったと何とか起き上がる。


「シロ、どっから入った?」
「にゃー」


シロはついてこいとばかりにこちらを振り向きながらドアの方に向かう。


「待てよ‥オレ頭痛ぇんだけど」
「にゃー」


ついていった先は名前の店だった。


『本日休業します』という貼り紙がはってあった。昼を食べに来たらしき客が「あちゃー」と残念そうに呟く。


「名前ちゃんの縁談今日なのかぁ。呉服屋と会食だろ。マスターは気にせず好きにしろって言ってるらしいけどどうすんのかなぁ」
「いや断らないだろ。実際断ったら残念だけどこの店終わりだろうよ」
「だよなぁ」
「でもこの店でもう名前ちゃんの笑顔見れなくなるの寂しいなぁ」



立ち尽くすオレにシロが「にゃー」と一声鳴いた。



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気付いたら華の10代を終え、結婚を意識する年になっていた。
人生で独身のうちに出来ることをしておこうと、単身でずっと憧れていた江戸に出てきた。


まだよく分からない土地の中、住み込みの仕事が決まってすぐに白い猫を拾った。
新しい生活を始めるのに何もない自分を重ねてしまったのだ。


江戸には私の田舎にないものが沢山あった。
きらびやかな店。そしておびただしく宙をとぶ宇宙船の数。
天人なんて私の田舎には本当にたまにしか見なかった。


「おいお嬢ちゃん可愛いじゃねぇか」
「‥‥‥‥ちょ、ちょっと」


天人はこんなにも人間を下に見ている生き物だと初めて知った。
腕を引っ張られ無理やり連れていかれそうになる。拾った白猫は必死ににゃーにゃー鳴いていた。


「通行人に何してんだよ」


助けてくれたのは黒い服を着た人だった。


「‥‥真選組‥‥土方十四郎か。あまり問題を起こしたくない相手だ」


天人はそう言って去っていく。


「大丈夫か?」


私は今まで年相当に恋をしてきた。
酸いも甘いも経験し、それなりに恋の経験値は積んできたはずだった。
しかし手を差しのばされた時、今までの経験も虚しく、私はいとも簡単に恋に落ちてしまったのだ。




家に帰って来てそのまま白猫をお風呂に入れた。


「ねぇ、今日の人かっこよかったよね‥」
「にゃー」
「あーもう一回会えるかなぁ。土方十四郎さん‥‥」


白猫は特に水を嫌がることもなくあくびをする


「十四郎‥‥十四郎‥‥しろう‥‥シロ」


はっと閃く。


「ねぇお前、シロって名前にしよう」



ただ偶然助けてもらっただけで、この恋は実ることはないと思い期待などしていなかった。
これはただの憧れで、この気持ちは次第に消えて終わるものだと。

シロが連れてきた時は本当にびっくりしてどうしていいか分からず、でも結局恋に踏み出す勇気もなく、
恋心に知らぬ顔をして普通に接してしまう自分がいた。
(まさか年下とは思わずびっくりしたけど)

しかし仲良くなる内に消えるはずだと思っていた恋心はどんどん大きくなり、自分でも隠しきれないほどのものになってしまった。


でも昨日飲んで想いを言えてスッキリした。
抱き締められて涙を拭いてもらえた。私のこの憧れから始まった恋にはそれでもう十分すぎた。

だから今日お嫁にいこうと決心したんだけど。



「勝手に嫁にいくなよ」

会食が始まるまであと30分というところ。
お店で待っていたのは呉服屋の主人ではなかった。


「はぁ、色々やっちまった。疲れたわ」
「え、何でここにいるの?」


十四郎君がシロと店の前に立っていた。


「さっき呉服屋んとこ行ってきた。お前の店オレが買ったわ」
「‥‥はい?うそでしょ」
「ほら権利書見ろよ」
「お金‥‥いくら‥‥したの」
「あぁ、オレがせっせとためた貯金のほとんどが消えたわ」
「馬鹿じゃないの‥‥どうして‥‥そんな‥‥」


十四郎君は珍しく笑っていた。


「いいよ。馬鹿で。あの店の看板娘が守れたら」
「そんな‥‥」
「名前ちゃん!」



声の方を見るとマスターが呉服屋から連絡をもらったのか慌ててやってきた。


「名前ちゃん、一体どうしたの?」
「マスター、ご、ごめんなさい。何か‥‥」
「いや、オレが勝手にしたんだわ」
「土方さん‥‥何とお礼を言えばいいか‥‥名前ちゃんの好きにして言いといいつつ、そんな事無理だったよね。ごめんね、名前ちゃん」
「そんな‥‥マスター‥」
「土方さん、お金はどうしたら」
「そうだよ。私返すから‥‥時間かかっても‥‥」
「いらねぇよ。その代わりよ‥‥」


シロが十四郎君の足元にすり寄って鳴いた。
十四郎君はシロをひょいと持ち上げて二ッと笑った。




「おい、マスター。店に置いといていいからよ‥名前はオレが貰うぜ」
「にゃー」


シロは嬉しそうに鳴き声をあげ、満足気にゴロゴロと喉を鳴らした。





hey,master



おわり


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