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可愛いってそりゃ、母ちゃんはその美貌で歌舞伎町で稼ぎに稼いだ女だったからね。おかげで父親は誰だか分からない上に結局母ちゃんは知らない男と家を出ていったよ。私のそんな人生も18年目。

可愛いとか言われても自分の人生肯定なんて出来ないから全然嬉しくないんだよね。こんな顔いらないから違う母ちゃんのとこ生まれたかったよ。

「名前の事が好きなんだけど、オレと付き合って‥「ごめんなさい」

今日の天気は快晴だ。
冬のお天気特有のカラッとした気持ちのよい気候である。
屋上にて乾いた風が髪をさらう。

今私は高校生活何度目か分からない告白を被せ気味に断った。

「恋とか興味ないんで」

断り文句はいつも同じだった。
去っていく男子はサッカー部のエースで女子にそこそこ人気らしかったが、特に喋った記憶はない。

「あらあら、一瞬でヤツの恋が終わっちゃったね。かわいそ〜」
「うわ、見てたの。悪趣味」

タバコの煙と共に担任が現れた。
ふわふわした銀色の髪を揺らし意地悪そうに笑っている。

「いや、たまたまだよ。なんかあの男の気持ち考えたら先生心が痛くなったわ」
「笑ってんじゃん」

ニヤニヤとしながら銀八は煙をフゥと吐いた。タバコは母ちゃんやその周りにいた男を思い出すのであまり好きじゃない。銀八を少し睨んで無言のまま屋上をあとにした。

私にとって銀八は至って普通の担任だった。
銀八だけじゃない。
今自分がいる生活の全ては至って普通に見えた。
母親に捨てられるというまぁまぁヘビーな体験をしてしまったせいか、物事に関してあまり心が動くこと自体なかったのだ。

愛だの恋だのそんなフワフワしたものに対して確信を持つことは出来なかったし、もっと普遍的なものに魅力を感じる。

(そう、例えばお金とかね‥)

高校の寮に住みながら早朝に新聞配達をしてコツコツ貯めたお金だ。信じられるものは己と現金のみ。
そう思って今まで生きてきた。
多分これからもそうだ。


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