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きっともうすぐ訪れる、キスより先のこと。
柄にもなくそれが特集された雑誌なんか読んだりして、想像してみたりして、結局恥ずかしくて途中で終わる。


「なぁ、卒業式の後どうする?」

週末いつも通り銀八のマンションで雑誌を読みながら寛いでたら缶ビール片手に銀八が話しかけてきた。

「んー‥べ、別に何でもいいけど」

何となく焦りつつありふれた答えを返す。

「色々やることあって帰り遅くなるかもしんねぇけどお祝いしねぇとな」
「‥お祝いしてくれんの?」
「そりゃめでてぇことだからな。鍵ポスト入れとくからここで待っててよ」

銀八はニコニコ笑うと子どもみたいだ。

「う、うん」
「ケーキ食べような」
「うん」
「イチゴのってるやつな」
「うん。銀八が好きなやつね」
「ほんでよぉ‥」
「ん?」
「その日は泊まってけよな」
「‥う、う‥ん」

顔が赤い。持っていた雑誌で必死に顔を隠した。

もっと可愛いくなりたい。
初めてそんなことを考えた。

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卒業式。
式は滞りなく終わり、外に出ると沢山の男子生徒に並ばれて告白を受けたり、写真を撮らされたりした。

もう私は恋を知っているので、1人ずつ断る度に申し訳ない気持ちもあり。幸せになってくれよ、という気持ちもあり。
でもそう思いつつ、なかなか言葉に出来ないので、
「ありがとうね」
その一言で伝わるといいな、と瞳を細めた。

1人ずつ対応しているのもあり、長蛇の列はなかなか終わらず結局夕暮れまで続いた。

制服のまま、貰った花束を持ったまま、心臓をならしながら銀八の家へ向かう。

(鍵はポスト‥鍵はポスト‥)

と何を考えれば良いのか分からず何度もそれを頭で繰り返す。

銀八のマンションにつき、ポストの前で深呼吸をする。
(鍵は、ポスト‥)

ポストには小さな封筒が入っていた。

(これか‥)

手に取る。
チャリ、という音と共に鍵が姿を見せる。メモもついていた。

「卒業おめでとう。この鍵は名前専用な」

今まで黒板で見てきた銀八の文字が私の
手の中にあると思うと不思議だった。もう私は銀八の授業を受けないのか、と思うと少し寂しい。
名前はその紙を大切にポケットにしまった。

鍵をつかってドアを開ける。

「おかえり」
「えっ‥」

銀八がいた。

「帰ってたの?早かったんだね」
「名前が遅ぇんだよ。見たぜ、ファンの列長すぎ」
「そ、そっか」

銀八にふわりと抱き締められた。
まだこういう人との接触は慣れない。
心臓がドキドキして顔が熱っぽくなる。

銀八はそんな私の顔を満足そうに眺めた。

「お前のファンの奴らには悪いな〜」
「なんで、っむぅ」

口を塞がれる。

「名前のこういう顔、見れんのオレだけだもん」
「ぎっ、銀‥」

また塞がれた。
同時に私の頭にあった銀八の手が下がっていく。

銀八は余裕そうに笑い私を見つめる。
その視線に耐えかねて、何とか気をそらさせようと考えるが何も出てこない。

「あっ!そうだ!」
「なに」
「あ、あの、鍵。鍵!ありがとう」
「あ、うん。いいよ。」
「手!手!銀八!手が!」
「制服脱がすの夢だったんだよねぇ」
「変態!変態おやじ!」

するすると制服のスカーフを外し、脱がしにかかる銀八の手をどうにか制御した。

「なんだよ。お前真っ赤」
「だ、だって。待ってよぅ」
「待ったぜ。卒業までずっと我慢して‥あ。そういや言ってねぇな」
「な、なに」

銀八は二ィと笑い、私の真っ赤な頬にキスをした。

「卒業おめでとう」





マドンナ

終わり


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