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「名前早くっ」
「ちょっ、待って…」
セーラー服は走るのには向いていない。
走る度に揺れるスカーフがペチペチ顔に当たるし、スカートも空気の抵抗を受けて必然的に足が重くなる。
前を走る友人はそんな同じ状況にも関わらずものすごいスピードで廊下を駆けていっている。これが恋の力なのだろうか。
銀魂高校には王子がいるらしい。
その王子を見るために放課後になるとファンの女子は皆一目散に剣道場に群がる。ただその剣道場にある窓は小さく、その前はすぐファンで埋まってしまう。
王子を最前列で見るためには走って場所取りをする必要があるのだ。
「3年の先輩なんだけど、本当にカッコいいんだよね」
入学して早々仲良くなった友達が言っていた王子とやらをほんの軽い気持ちで「私も一度見てみたい」と言った結果、このように私は走っている。
「はぁっ、はぁ…」
なんで男を見るためにこんなに体力を使うんだろう……今私には後悔しかなかった。
銀魂高校の王子。
本当にそんなにカッコいいのだろうか。
やっと剣道場が見えてきても期待に胸が膨らむことはなく、走ったことによりずり下がった靴下がただただ気持ちが悪かった。
「はぁ。一番前だ。良かった。」
「本当良かったー。毎日頑張ってたらさ、顔覚えてもらえるかな」
「そんな?そんなに頑張る?」
「へへ。名前も一回見たら惚れちゃうよ」
無事に最前列をゲット出来た友達は鏡を見ながら髪型や制服の乱れを直していた。
もう既に後ろには他のファンの子達が列を作っていた。
「4時から練習開始だからもう少ししたら来るよ。」
「4時って……まだ30分もあるんですけど……」
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