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きゃーっという黄色い声と共に剣道部員がぞろぞろと入ってきた。

王子とやらはどれかなぁと思ったが、黄色いさらっと揺れる髪の毛が目に飛び込みすぐに分かった。


金髪の王子という情報は友達から仕入れていたのだ。その友達は横できゃーっと他のファン同様はしゃいでいた。


(コイツかぁ)

ふぅん、と剣道着姿の王子を上から下まで眺めた。確かに色白でくりっとした瞳は目を奪う。でもなんか…王子っていうよりただの坊やに見えるんだけどな。


そう思っていたら王子がこちらを振り向き目が合った。

いや、そう思ったのは私だけではなかった。ファンは皆自分こそが目が合ったと思ったようで、またきゃーっと声が上がる。


うるさくないのかな、と思うがもう部員達は慣れているようだ。それにこの窓を閉めてしまうと他に換気をする場所がなくなってしまう。
剣道場において多少うるさくとも換気ができないのは避けたいのだろう。



うつ向いて色々考えてる内にファンの子達はしん…と静まっていた。

(ん?)


何か始まるのかな、と思い顔を上げると目の前に王子がいた。


「なんでィ。お前、あっちで待ってろって言ったろィ。」
「はい?」


多分だけど間違ってなければ、王子は私に話しかけている。しかも馴れ馴れしく。

「わ、私?」
「何言ってるんでィ」


そう言って王子は私の曲がっていたスカーフを直した。

「お前以外に誰がいるんでィ。オレの可愛い彼女でさ。」
「…………」


よく言ってる意味が分からない。
少ししか機能しない頭でこの人は人違いをしてるんだ、って思考がよぎる。


「あの、」

人違いじゃないですか、そう言おうとした瞬間ギャーーという、ファンの悲鳴が言葉を遮った。

集まっていた皆が各々ポロポロ涙を流しながら散っていく。
私の友達も「ちょっと、……ごめん」と言って走っていってしまった。

「え、違っ…」

追いかけようとした瞬間肩をガシッと掴まれた。
振り向くと笑顔で私の肩を掴む王子。


「あの人違いしてます…」
「別に違ってねぇでさ。お前ちょっと協力しなせェ。」
「は?」

「近藤さんちょっと10分抜けまーす」王子はそう言って窓からピョンと飛び降り私の手を掴み歩き出した。


「ちょっと来なせェ」
「は、はい」



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銀魂高校には王子がいるらしい。

今その王子と私はふたりで歩いている。


着いたのは剣道場の隣にある剣道部の部室だった。汗の匂いがする中案内されるままに椅子に座る。


「お前何年生?」
「い、1年です」
「ふぅん」

王子は冷蔵庫からレモン牛乳を取りだしチューっと吸う。

「お前もなんか飲むかィ」
「いや、そんなお気遣いなく…」
「そうかィ。」
「あの、ご用件とは。」

学校中の人気を博する王子と二人きりという状況に耐えきれず、慌てて本題を聞いた。
王子はレモン牛乳を飲みながら向かいの椅子にドカッと座った。


「単刀直入にいうとオレの彼女になって欲しいんでさ」
「……ん?」
「あ、間違えた。彼女のふりをして欲しいんでさ」
「あぁ、びっくりした。ふりかぁ…。ん?あれ、ふり?」
「そうでさ」
「ふり…とは?」
「お前も見たろィ。あのうるせぇ状況を。大事な試合もあるし、こっちは本当困ってるんでさァ」
「はぁ、」
「彼女って盾でも作って追い払おうかと思ったんでィ。」
「盾、盾ですか。」
「お前別にオレのファンじゃねぇだろ」
「は、はい」
「今日オレのことジーっと見た後30点くらいの男とか思ったろィ」
「いやいや、そこまで思ってないです!」
「とにかくそういう女のがやりやすいんでィ。心底ムカつくけど。人助けだと思って頼みまさァ。」

あれ、今ムカつくって言われたんだけど。何だろう、この人王子とか全然似合わないんだけど。

「名前は?」
「…名字名前です。」
「名前ね。まぁとりあえずオレの一言でバカな女達はお前に嫌がらせだの何だのするだろうしねェ。オレには逆らわない方がいいでさ」
「お、脅し……」


本当にねぇ、誰が王子ってあだ名つけたの。全然王子じゃないんだけど。


「というわけで、宜しくお願いしまさァ」




王子は満足そうにニコッと笑って飲みきったレモン牛乳をゴミ箱へシュートを決めた。


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