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「痛ェ」
ポタポタと髪から雫を垂らしながら高杉がシャワーから出てきた。
我が家には高杉用のジャージもあればパンツまである。
「……痛ェ」
同じ言葉を唱えながら高杉はリビングのソファに座った。
我が家の両親は「高杉くん名前をよろしくね〜」と言って高校入学と同時に二人で父の単身赴任である海外に行ってしまった。
よろしくも何もコイツが1番危ないんだけど…と思うが、確かに高杉はちょいちょい危ない時には助けてくれる。
変な男に声をかけられても、重い宅急便が届いても、はたまたシャワーが壊れた時でさえ高杉は「大丈夫か」とタイミングよく来てくれるのだ。
「痛ェ」
高杉が三回目の痛いアピールをしてきた時にはオムライスが完成した。
彼は運ばれたオムライスに気付くとピクリと嬉しそうな反応を微かにし、ガツガツと食べ始めた。
私は濡れている高杉の頭をタオルでゴシゴシと拭いてやった。食べている反動で頭も少し動く。さっきから痛いアピールをしてくる私が殴った箇所は心なしかたんこぶになっているようだが気付かなかったことにした。
「なぁ名前」
「なに」
「結婚するか?」
「……」
「なぁ」
「するわけないじゃん」
この軽々しいプロポーズの言葉はもはや高杉の口癖みたいなものだ。今回はオムライスが美味しいね、みたいな意味合いだろう。
こんな女たらしと結婚はしたくないなぁ、そう思いながら高杉の眼帯の紐をピーンと指で鳴らした。
「オレいい旦那になるぜ」
「いや、私彼氏出来たから」
「…は?」
高杉は持っていたスプーンをガチャンと落としてこちらを見た。
「オイ冗談だろ。待てよ。誰だよ」
「銀ちゃん」
「……はぁ?」
「内緒にしてね」
高杉のあんな顔は長年一緒にいて初めて見た。
目がパチクリとしていて口はあんぐり開いていた。うすい唇の横にケチャップがついたままで少し笑えた。
「あ、電話。銀ちゃんからだ」
「オイ、それマジな話なのか」
「食べおわったらお皿流しに置いておいてね」
「おいって」
高杉とのやり取りが面倒くさそうだったので、適当に流してそそくさと自分の部屋に行って鍵をかけた。
つづく
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