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過去拍手文です
ーー
ある日晋助が連れてきたのは一人の幼子だった。
「万斉ーっ歌作ろー」
最初は薄汚れ暗い雰囲気を持った幼子はあっという間に花が開き、今ではにこにこと周りに愛想を振り撒いている。
叫び声とはじける血で埋め尽くされる戦場と比べ、この子と過ごす時間のなんと平和なことか。
「万斉、人のメロディ分かるんでしょ。私に流れてるのってどんなメロディ?」
「年中お花見のようでござるな。暖かくて呑気で、無垢な桜が咲いてるでござるよ」
しかし子どもの成長はあっという間だ。
娘に流れる幼い音楽は憂いと慈しみのあるメロディへと変わっていく。
晋助もある時からあの娘を見る時だけ、キュウウと弦が張り裂けそうな切ないメロディが鳴り響くのを拙者は知ってる。
「晋助、お主あの娘‥抱いたでござるな」
戦場へと向かう船の中、晋助へ聞いてみた。
「‥っ悪ぃかよ」
いつも涼しい顔の晋助が珍しい。
もうメロディなんぞ聞かなくても顔を見れば何を思っているかすぐ分かった。
「大切な存在‥か」
「うっせぇな。とっとと敵共片して帰るぞ」
「早く帰って抱き締めたいんでござるな」
「うっせぇっつの」
今まで見たことのない晋助の表情に何だか1曲書けそうだ。
そうだな、切ない月夜の夜桜のような歌を。
おわり
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