買ってしまった……恐らく、人のお金で。
罪悪感を誤魔化すように、すぐに開封して露出している部分をメインに塗り広げていく。同時に買ったスプレータイプのものも、忘れずに顔や髪につけて、持っていた小さい鞄に詰めていると、ミオちゃんがそういえば、と呼びかけてきた。
「叶ちゃん、希望のカケラは集められそうっすか?」
「き、希望のカケラ……?」
希望のカケラ、とは。そんな共通認識みたいに言われても……
記憶が途切れる前、ウサミちゃんが何か言っていた気もするけど。
……確か、それを集めないと家に帰れないんだっけ? でも、そんなに急ぎっていうような話だっただろうか。
「唯吹たちは叶ちゃんが寝てるうちに済ませたからいいっすけど……もしかして、その顔忘れてた……? ホラホラ、電子生徒手帳を開くっすよ!」
「わ、わかったから。押さないで」
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美澄叶
身長169cm 体重 45kg
胸囲 70cm 血液型 A
誕生日 6月16日
好きなもの コスメ、SNS、フェス
嫌いなもの ポテチ
特記 超高校級の美容学生
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言われるまま、それを開くと、ずらりと並ぶパーソナルな部分。
……ここにわざわざバストを書く必要あったんだろうか……? それに、全部の数字がそこそこ直近のものが反映されていて、軽く恐怖を覚えた。訴えたら勝てそうかも……。
「ちら〜っちらっ! 叶ちゃんフェス好きなんすね〜! 今度の夏フェス、新しい音を探しに唯吹とレッツら☆ゴーっすよ! ____じゃなくて、え、ぽ、ポテチが嫌いってどういうことっすか!? チョーカルチャーショッキング! そんな高校生存在しないっすよ……じゃ、じゃなくて、」
「……ここか」
隣から平気で個人情報をのぞき込んで、マシンガントークを繰り広げるミオちゃんをそのままに、通信簿と書かれたメニューをタップすると、みんなのアイコンらしきもののとなりに星のマークがずらりと並んでいた。デザイン性は悪くないな。
「……どれどれ? 創ちゃんに凪斗ちゃんに眼蛇夢ちゃんに和一ちゃん、蜜柑ちゃんに唯吹……あのあの、叶ちゃん、全員で17人いるんすよ? 超絶激遅しっとりバラードもびっくりのテンポっすよ! どうかしてるっす〜!」
そんなことをまくしたてられ、全員分集めないと帰ってきちゃだめっすから! と、スーパーを追い出された。
「ええ……?」
相変わらず、嵐のような女の子である。
先程会ったみんなとの希望のカケラは集まっていたから空港に背を向け、逆方向に進んでいくと、大きいリゾートホテルにたどり着いた。
コテージだって恐らく全員分並んでいて、涼し気なプールも側にある、ラグジュアリーな雰囲気の場所だった。
パラソルの下のデッキチェアに誘われるように歩いて、すぐに考え直す。座ってる場合じゃない……!
「わ、ひょっとして美澄叶?」
ふと、前の方から名前を呼ばれた。
……まあ、SNSでもわりと有名だし、同年代の女の子たちからも
「江ノ島盾子」ほどじゃないけど。
顔を上げるとそこにいた子は、赤髪をショートボブにした女の子だった。ちょっとレトロなグリーンで、クラシカルなデザインの制服がよく映えている。
ネクタイもシンプルながらも可愛いピンクのギンガムチェック。
首から下げた黒い大きな一眼レフの黒色が、締まった印象を与える。きっちり整っていて、バランスが良いな、っていう印象。
「……私のこと、知ってるんだね」
彼女も、この修学旅行の参加者なんだろうか。