教えられた店内に入ると、エアコンのよく効いた風が頬に当たって気持ちいい。
結構汗かいてるんだな、私。慌ててタオルで汗を拭くと後ろから声をかけられた。
「あ、あのぅ……!」
声は控えめに、でもなんだか勢いとしては前のめりな雰囲気を感じて、すぐに振り返る。
内股で、猫背気味。
体に巻かれた包帯と、ちょっと不揃いな髪の毛が気になるけど……ピンク色の混ざった瞳が可愛らしい、そんな雰囲気の女の子だった。
パステルピンクのナース服とナースシューズ、それからエプロンの白衣から覗く医療道具から、恐らく看護師さんかな、と推測する。
「もしかして、『超高校級の看護学生』、とか?」
「あ、いえ! 一応、『超高校級の保健委員』の、罪木蜜柑ですぅ…………! け、怪我したら私のこと、頼ってくださいねぇ……?」
「私、美澄叶。『超高校級の美容学生』。よろしくね」
美容は体の健康を保つ側面も強いと個人的に思っているから、それにつながる医学的な知識の部分を教えてもらいたい。
そうだ、せっかくだから日焼け止めの成分のこととかも教えてもらおうかな。
「日焼け止め探しに来たの。罪木さんはどこにあるかわかる?」
「あっ、……日焼け止め、ですかぁ? あっちに売ってましたよぅ……!」
震える声で教えてくれた彼女が、スーパーの一角を指差して教えてくれる。
マリングッズが置いてある付近が、ちょうどドラッグストアの化粧品コーナーのようになっていて、そこに見慣れたメーカーのものもあるのが見受けられた。
「良ければ、一緒に行こう」
声をかけて、歩き始めた。
「そうですよね、ここまで紫外線が強いと、ちゃんと対策しないと、ですよねぇ……」
「……うん」
「あ、あのぅ……美容学生の美澄さんはぁ、やっぱり成分とかで、選んでいるんですか……?」
「当たり前」
「……あ、……そ、そうなんですね」
にしても、日焼け止めのことについて、何を語ればいいんだろうか。紫外線吸収剤と紫外線散乱剤の適切なバランスとか……? なわけないよね。
気まずい沈黙の中、なんとか話題を絞り出そうと考え込みながら歩いていると、ようやく棚の前にたどり着いた。
いつも使っている日焼け止めを手にとって、その後ろを見て、一言絞り出す。
「罪木さん、美容成分的にはこっちのほうがいいんだけど……」
「あーー! 叶ちゃんじゃないっすか! どもども、さっきぶりっす!」
「…………ミオちゃん」
罪木さんと言葉を交わすのは叶わず、いつも使っているメーカーの日焼け止めを見つけて、そのままレジに持っていき会計をしようとする。確か、今にお財布を入れていたはずだ。
「うきゃーッ! マルジェラのミニ財布っすか!? 叶ちゃんおっしゃれ〜!」
「……」
一万円札を手に持ったまま、私は固まってしまう。
お財布をのぞき込んでくるミオちゃんが気にならないぐらい、無人レジに表示された「ソレ」は衝撃的なものだった。
「えっと……コイン?」
見たことのない通貨を求められ、ミオちゃんと見つめ合う。
「な、なんすかそれ……」
「あっ、あぅ……美澄さん、澪田さん……これ、もし使えそうなら、その……ひとまず、貰ってください」
差し出された手に乗った、何かを模したコイン。
しばらくの葛藤ののち、私は罪木さんの手のひらに手を伸ばした。
「ありがとう」
「そ、そんなぁ……! うふふ」
「前髪、伸びたら整えてあげるよ」
「……へ」
罪木さんが、固まってしまった。そんなに変なことは言った記憶ないんだけど。
「にしても、よく蜜柑ちゃんこんなの持ってたっすね! どこの国のお金っすか?」
「あ、その…… さっき海で拾ったので、詳しいことはわかんないんですけど……ごめんなさぁい……」
金属特有の冷たさを指先に感じる。
何かの記念コインに見えるそれだけど、他人が落とした通貨だと認識してしまうと、ひんやりとした感覚が頭まで伝ってくる。
……これを、本当にレジに入れるべきなんだろうか。またしばらく悩む羽目になってしまった。