04.
「わあ…ココが五条さんの家ですか……大きいマンション…!」
「寝に帰るだけ、って感じだけどね」
「ええ、こんなに良い家なのに、勿体ない……」
「なら、名前ちゃんが住む?あのボロアパートよりは住み心地良いでしょ」
「や、ココに比べたらボロアパートかもしれないですけどあそこだってそこそこ…って、五条さん私の家知ってるんですか!?」
「えー?うん、知ってるけど」
「な、何で…そう言えば私の職場も何で分かったんですか?私、OLしてるとは猪野さんに言ったけど場所までは言ってないのに…」
「あはは、今更気付いたの?疑り深いんだか鈍いんだか分かんないね」
明るい声と、面白そうに時折漏れる笑い声。
それらが会話の内容と全くマッチしていない。
「あ、オートロックの暗証番号はコレね」
「え?はい」
「で、エレベーターがこっち。階数は1番上。覚えやすいでしょ?」
「そうですね…って、そうじゃなくて!何で、私の個人情報を知ってるんですか!」
「調べたから」
「違う、手段じゃなくて理由!」
「理由ねぇ。君さ、あの日もう僕に会う気無かったでしょ。逃げる気満々だったよね。僕達が帰るってなった時、凄いホッとした顔してた。あーこれ店辞めんなー、と思って1週間後に行ったらもう辞めてるんだもん。笑っちゃったよね〜。近いうちにまた来るから考えといてね、って言ったのに黙って辞めちゃうとか酷いよ」
「だって…怖かったんですもん…」
そこまで話したところでエレベーターが到着し、静かにドアが開いた。
五条さんに続いてエレベーターに乗り込むと静かにドアが閉まり、密室に2人きりになる。
「怖がらせちゃったのはごめんね」
「いえ…ていうか微妙に答えが質問からズレてませんか…?」
「お、鋭いねぇ。まぁ、確かに普段ならお店辞めた子の事なんてよっぽど何か問題でも無い限りどうでも良いんだけどね。君はなんて言うか…理屈じゃないんだよね。このまま二度と会えないのは嫌だ、って思ったんだ。あの日だって急用が入らなきゃまだ帰らないつもりだったし、いっぱいお話したいなって思ってたんだよ。近いうちに来るって言うのも本気だったし、実際、普段ならあのお店1ヶ月に1回顔出すかどうかなのに1週間後に行ったしさ。」
「………」
「あは、"気に入られたら困っちゃう"?」
「ああぁ、ごめんなさい、あの時は本当に生意気を、」
「ははは!冗談冗談!さ、もう着くよ」
*
「う、わぁ…広い…景色凄い…」
「でしょでしょ。こんなに広くなくても良いんだけど景色は結構気に入ってるんだよね」
都心の一等地に聳え立つマンションは、その立地だけで無く外観からも住むにはとんでもないお金が必要なのだと分かる。
エレベーターを降りた先、最上階には五条さんの部屋しかなく、フロア全体が五条さんの家、ということになる。
自分の家なのだから当たり前だが五条さんは全く何でもないように革靴を鳴らして扉の前に立ち暗証番号を打ち込んだ。
ソワソワと辺りを見回していれば、くるりと振り返り突然暗証番号を伝えてくるものだから慌ててソレを頭の中に叩き込み、五条さんに続いて部屋の中へ上がらせてもらった。
一般家庭、それも貧しい部類の出である私にとってそこは初めて足を踏み入れる空間だった。
私の拙い語彙では、『とにかく広くて綺麗で景色が良い』としか表現出来ないのが悔やまれる。
ハウスキーパーが必要な家って、どんな家よ。と内心思っていたのだけど、これは確かにハウスキーパーを雇うに相応しい家だと納得した。
これからこの家が自分の第2の職場になるということを忘れ、広い大きな窓からの眺めに見入ってしまったが、五条さんの『気に入ってくれた?』のひと言で我に返り、部屋の案内や働くにあたっての決まり事など細かいことを話し合った。
ていうか、冷静に考えると気に入ってくれた?っておかしな発言だ。
私もつい、『気に入りました』なんて答えてしまったけど、私はここで働く訳だし気に入るとか気に入らないとかそういうことは関係無いと思うけど。
今更そんなことを掘り返しても仕方ないし気にしないことにして流したが、この小さな違和感が後々大きな問題へ発展していくなどこの時は思いもしなかった。
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