水を取りに行くと言って出ていったきりいつまで経っても戻ってこないルーラに痺れを切らして、食堂に足を踏み入れた瞬間。むわり、と強いアルコールの匂いが襲いかかり、ギルガメッシュは眉間に皺を寄せた。
 床に転がった酒瓶を蹴飛ばしながら目当ての人物をさがしあてれば、酒宴の輪の中に居て、眉間のシワがさらに濃くなる。

「おい」
「あ、おーさまやぁ」

 アルコールによって赤く染まった肌にとろん、と融けた翡翠。きゃらきゃらと笑いながら見上げてくるルーラに普段の他人に見せるような、人を揶揄うような表情は無い。己以外の他人にアルコールで蕩けきった顔を晒すルーラの姿に、言いようのない感情が体の底から湧き上がってくる。

「いつまでそこにいるつもりだ」
「おーさまに怒られたしうちそろそろもどるわ」

 不機嫌を隠さない低い声でそう問えば、ほとんど呂律の回っていない輪郭を失った声で話しながらルーラがへらへらと笑う。そのまま床に手をついてゆっくり立ち上がろうとして、ルーラの体がぐにゃり、と崩れおちた。大方アルコールが回りすぎて立ち上がれなかったのだろう。数回挑戦して、立ち上がるのを諦めたのかルーラはそのまま床に座り込んだ。

「おい、」
「おーさまだっこぉ」

 一瞬、何を言われたのか理解が出来ず、ギルガメッシュは目を瞬かせる。ようやく理解した頃には、ルーラがこちらに向けて手を伸ばしていた。かなり酔いが回っているのだろう。普段では有り得ないような甘え方に眉間のシワが濃くなる。

「おーさまぁ、あかん?」

 こてん、と首を傾げながらルーラがギルガメッシュの名前を呼ぶ。情事の際に出す、砂糖を絡めて熱したような、どろりと重たく甘い声。
 どこから出しているのだと言いたくなるほどひどく甘ったるい声にギルガメッシュは眉間の皺を濃くしながら、思考を走らせた。己が従者のような真似事をするのは気が乗らないが、このまま放って置けば己以外がルーラを部屋まで運ぶのだろう。それは非常に気分が良くない。
 顔を顰めたままため息を吐くと、ルーラの手を引いてゆっくりと立ち上がらせた。そのまま体を抱き上げれば、ルーラが子供のようにきゃらきゃらと笑いながら、ギルガメッシュの首に手を回す。

「んふふ、おーさまありがとぉ」

 ぱさり、とルーラの長い髪が揺れて、アルコール混じりの吐息がギルガメッシュの肌を撫でる。
 誰かのタバコの移り香なのか、見知らぬ苦い香りを纏うルーラに言いようのない感情が己の中で染み出していく。
 顔を顰めたまま、ギルガメッシュは自室に足を向けたのだった。






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