自分を愛さなければ、他人に愛されない。そんな世迷い言を吐くのはきっと、たくさん愛されたことのある人間なのだろう。
だって、自分で自分を愛せないから他人からの愛を求めるのだ。他人の愛に縋らなければ、自分に価値が見いだせない。ぼやけた線を輪郭にするために、愛されたいと願うのだ。
「あ、」
じゅ、と肌の焼ける音と匂いにふわふわと揺蕩っていた意識が現実に引き戻される。ちらり、と目を落とせば己の腕に残るタバコの痕にまたやってしまった、とルーラは目を伏せた。
これで何回目だろう、と他人事のように傷跡を眺める。カルデアに来る前か、来てからか。もう忘れてしまったが、ルーラは時折こうして自分を傷つける事が多々あった。
するり、と撫でるように火傷の痕を触れば、引きつったような痛みが腕から広がる。それを自嘲気味に笑って、いつの間にか捲っていた袖を下ろした。
この程度の傷を治すのにいちいち魔術を使うのもめんどくさい。それにすぐ治したところでまたしてしまうのだから、定期的に行われる健康診断までに治してしまえばいいだろう。
火の消えたタバコを灰皿に捨てて、新しいタバコに手を伸ばす。そのまま咥えて火をつけると、不健康な煙が肺いっぱいに広がって、ルーラははぁ、と息を吐いた。
(おーさまのお気に入り…)
第六特異点の修正後、アルトリアというサーヴァントが召喚された。ギルガメッシュと同じ冬木の聖杯戦争に参加し、そこでギルガメッシュが見初めたらしい。
我の妻になれ、という言葉を何回聞いただろう。ギルガメッシュがアルトリアにそう言う度に、ナイフで刺されているような痛みが体に広がっていく。それこそタバコを押し付けた痛みなんかよりも鮮烈などうしようもない痛み。
アルトリアが悪くないの分かっている。ギルガメッシュが強引なのも分かっている。それでも、腹の中をぐちゃぐちゃになるまでかき混ぜられているような気持ちの悪い感覚がずっと消えないのだ。
「あほらし」
ゆっくりと吐き出した煙が空気中に消える。アルトリアへ抱いた醜い感情も、この煙と一緒に消えてくれれば良いのに。
自分の欲しくて欲しくたまらないものを持っているアルトリアに対する醜い嫉妬。自分はギルガメッシュからの愛が欲しくて欲しくてたまらないのに。要らないのならそこを変わって欲しい。なんで自分じゃないのか。そんな醜い感情が体を支配して、まとわりつく。
「…おーさまきらい」
ぽとり、とタバコの灰が落ちる。嫌い、と口にしたところで何が変わるわけでもない。それでも、ずっと口にし続けければ、ギルガメッシュへの恋心が消えてくれるかもしれない。
短くなったタバコを灰皿に押し付けて、積み上がった吸殻をゴミ箱に押し込むように捨てる。こんな風にギルガメッシュへの恋心も簡単に捨ててしまえれば楽なのに。
(きらい……)
するり、と自分でつけた傷跡をなぞる。魔術を使えば消える程度の傷と痛み。簡単に消せてしまえる傷なんて付けた所で何になるのだろう。
こんな傷よりも、ギルガメッシュへ抱いた恋心の方が何倍も痛かった。
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