乱雑に押し倒した細い体が寝台で跳ねる。突然の行動に戸惑いながらも、己の下から逃げようとするルーラの手首を無理やり掴んで拘束すれば、みるみるうちに顔が青ざめていく。
こんな顔をさせたかった訳では無い。それでも、己はこれ以外の方法を知らないのだ。
「貴様は、なぜ、何も欲しがらん」
体で暴れる激情とは裏腹に、発した声は自分でも驚くほど静かだった。それと反比例するかのように、ルーラの腕を掴む手が力む。あと少し、力を加えてしまえば折れてしまいそうな程強く握った手首は頼りないほど細い。
僅かに身じろいだ体を逃がさないように更に力を強めれば、折られると思ったのかルーラの顔が強ばり、恐怖と怯えが色濃く滲んでいく。
「う、うちが、欲しいもんは、もうおーさまから貰ったから……それに今は別に、特に欲しいもんないし……」
小さく震えたルーラの声がギルガメッシュの耳に届いて、その言葉に舌を打ちそうになる。口を開けばそればかりだ。何を強請らせても、与えようとしても、ルーラは決まってそう答える。与えさせてくれない苛立ちは、ギルガメッシュを蝕む。
「何故だ。貴様が望めば我は……」
ルーラが望むのであれば、なんだって与えてやる。応えてやる。無理難題であれ、己が与えられるのであれば、全て。そう思うほど、ギルガメッシュはルーラのことを気に入ってしまったのだ。
そんな考えを読んだのか、ルーラが困ったように眉を下げながらギルガメッシュを見上げた。怯えの滲んでいた目は、いつの間にか愛おしいものを見るような色に変わっている。
「うちは、おーさまの隣が欲しかった。おーさまからの愛が欲しかった。……うちが欲しかったもんは、おーさまからもういっぱいもらっとるよ」
かつて己に伸ばされた手を、数千年の時を経てギルガメッシュは掴んだ。それはギルガメッシュがルーラを欲しがったからで、ルーラに与えた訳では無い。
それでもこの娘は、それを与えられたのだと。ギルガメッシュから貰ったのだと。
「おーさまにこれ以上を望むんは贅沢すぎると思わん?」
ふにゃり、と笑う姿に気が抜けて、手首の拘束を解く。いつ切れてもおかしくないほど張り詰めていた糸がゆっくりと弛む、そんな感覚だった。
「……それもそうだな。これ以上は貴様には奢侈というもの」
そう言いながらルーラの頬を撫でれば、擽ったそうに目を細めながら手のひらにへと擦り寄ってくる。
人類の裁定者としての己が瓦解していくような感覚。全を愛する道を選んだギルガメッシュには不要な感情。生前の己が決して選ぶことも、得ることも無かったその全てが己にまとわりついて、けして消えることなく体に沈殿していく。
ふたつも選べないことは知っている。それでも、いつか来るその日まで、目の前の娘には与えられるものは与えてやりたいと、そう思ってしまったのだ。
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