どろり。一虎の目が濁る。これは不味い目だ、と認識するよりも先に、一虎が千明を蹴り飛ばした。

「ぁ゛、」

コンクリートに背中を打ち付けたと同時に、一虎が馬乗りになる。成長途中の男の手が千明の首にかかって、ぐぅ、と気道を締めるように力が込められた。
こうして一虎が千明に暴力を振るうのは、何も珍しいものではなかった。一般的に試し行動と言われるそれは、千明がどこまで許すのかを、一虎が確認するために必要な儀式だった。

「抵抗しねえの?」

間違えても抵抗しないように、コンクリートに爪を立てれば、一虎が目を細めながらそう問いかける。まるで抵抗して欲しいかのような物言いは、本心のような、そうでは無いような、そんな雰囲気だった。

「ぁ゛、か、ず、とら、」

かひゅ、と喉から嫌な音が聞こえる。落ちる、と脳が理解した瞬間に一虎の手が首から離され、急に空気を吸い込んだ千明は勢いよく咳き込んだ。

「げほっ、」
「お前はおれの味方だよな?」

咳き込む千明にはお構い無しに一虎が覗き込んでくる。舌っ足らずに紡がれる言葉に頷きながら、千明は起き上がった。

「ぁ、たしはお前の行動も、お前のことも否定したりしねえよ……裏切ったりなんかはしないさ。だから、安心しろ……」

そう言いながら一虎の体を抱きしめれば、嫌がる素振りも見せずに千明の抱擁を受け入れている。
どろりと濁る目も。こうして自分に試すようなことをしてくるのも。ぜんぶぜんぶ、千明は愛しかった。

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