「ねぇ、稲葉くん」

部屋でくつろぎながら突然そう声をかけてくる笹貫に、また始まったと稲葉は眉間に皺を寄せた。笹貫がこうして話しかけてくる時は、十中八九糸櫻の話をする時なのだ。人付き合いが得意では無い自分が、それなりに糸櫻のことを知る程度には、よくある光景だった。

「なんだ」
「さくらちゃんって戦場で笑ってる時が1番きれいだと思わない?」

稲葉はは、と思わず声を漏らした。篭手切に教えて貰ったドン引き、というのはこういう時に使うものなのだろう。どうでも良い知識をまた増やしてしまい思わず顔を顰める。
自分の知る戦場での糸櫻と言えば、腕をふっ飛ばされようが内蔵が飛び出ようが瞳孔をかっ開いて高笑いしながら敵に突っ込んでいくような、そういう刀剣だ。あの同田貫でさえもやや引くような戦闘狂を、かわいいと言うのであれば、まだ極めた五虎退の虎の方が可愛げがあるというものだ。

「…どちらかと言えば勇ましい、のではないか?」
「え、稲葉くんは可愛いと思わないの?さくらちゃんが敵の返り血浴びながら笑ってるところとか」
「それをかわいいというのは恐らく貴殿だけだ」

言葉を選びながらそう言えば、へぇ、とだけ返して笹貫が黙り込む。
それを横目に見ながら、稲葉は本日何度目かのため息を吐いたのだった。

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