水柱の憂鬱

「あっ、冨岡さん!」

冨岡さんの屋敷を訪ねると、どこからか帰って来た冨岡さんにちょうど出会した。蜜璃ちゃんに恋を探してらっしゃいと言われたとき、どうしてか頭に冨岡さんの顔が浮かんだ。理由はわからないけれど、恋を探すなんて途方もない命令、当てもないので本能に従うことにしたのだ。

「…なんだ」
「今お時間ありますか?相談に乗ってほしくて…」
「何だ、簡潔に言え」
「恋を探してるんです」

いつも涼しい顔をしている冨岡さんの顔が一気に歪んでしまった。しまった、追い返されるかなと不安に思ったのも束の間、意外にも冨岡さんは、入れと屋敷の扉を開けた、歪んだ顔のままで。

広い庭の、これまた広い池に渡された橋を歩きながら、私なりに簡潔にことの顛末を説明する。早足のつもりはないのだろうけど、冨岡さんと私では歩幅が違うから、私は少し早歩きになる。それに気づいた冨岡さんが振り返って足を止めた。

「理由は分かったが、それで何故俺を訪ねてきたんだ」
「何故でしょう…なんとなく、です」

冨岡さんはさっきからずっと苦虫を噛み潰したような顔をしている。いつもの無表情はどこへ行ってしまったのか。私はしゃがみこんで足元に広がる池を覗き込む。水面に映る私がゆらゆらと揺れていた。

「冨岡さんはどんな恋をしてきたんですか?」

隣に並んで立った冨岡さんにそう聞いてみると、さらに苦い表情をして、

「お前には絶対言わない」

と一言。恋について知りたいと訪ねてきた相手に対してそんな返事あるだろうか。私もつられて苦い顔になり、水面に映る冨岡さんに、冨岡さんの意地悪と呟いた。

勘が外れてしまったのかも。今度は誰に聞こうかなと立ち上がったとき、いつもの表情に戻った冨岡さんに名前と呼ばれた。

「恋の呼吸は炎の呼吸の派生だ。煉獄に聞けば何かわかるかもしれない」

確かに!ああ何でそんな簡単なこと思いつかなかったんだろう!今までも煉獄さんには時々稽古をつけてもらってたし、煉獄さんに聞けば何か教えてもらえるかもしれない。

「冨岡さんありがとうございます!」
「役に立てたのならよかった」

それからはもういつもの冨岡さんで、無表情のまま屋敷の奥へと行ってしまった。昼時なら煉獄さんも屋敷にいるかもしれないと、私も急いで冨岡さんの屋敷を後にした。


(201129)