「俺は何も知らん!」
いつもの腕組みで喧しいくらいの声でそう言われると、まあそうだろうなと納得した。
「恋の呼吸は甘露寺が自ら考えた呼吸だ。恋の呼吸については俺は知らん!」
「そうですか…」
「それより久しぶりに稽古はどうだ」
どうだと言いながら手にはもう竹刀を二本持っている。有無を言わさない煉獄さんに、私は竹刀を受け取るしかなかった。稽古をしにきたわけじゃないけれど、煉獄さんと手合わせすれば何か助言してもらえるかも。私は竹刀を構え、煉獄さんに向かった。
稽古を始めてどれくらいの時間が経ったのだろうか、気づけば西の空に日が沈み始めていた。結局一本も取れないままだった。稽古場に大の字に寝そべる私を、煉獄さんが上から見下ろす。
「うむ!腕を上げたな」
「ほんとですか?」
「ああ!しかしまだまだだ!」
「どっちなんですか…」
上半身を起こすと体中が痛い。結んでいた髪留めも切れてしまっていた。やっぱり蜜璃ちゃんの言う通り、恋を探さないと強くなれないのだろうか。
「恋のことは知らんが、色恋沙汰なら音柱に聞いてはどうだ?」
「宇髄さんですか?」
「あいつは嫁が三人もいるからな!」
その言葉にハッとした。確かにそうだ、何でこんな簡単なことに気づかなかったんだろう!…って、冨岡さんのところでもそんなこと思ったような気が。
「そうしてみます!煉獄さん、ありがとうございました!」
煉獄さんに深く一礼して、私は屋敷を後にした。
・・・・
屋敷に戻ると、ボロボロの私を見た蜜璃ちゃんはとても驚いていた。
「まあどうしたの?!恋を見つけに行ったんじゃなかったのかしら?」
「煉獄さんに稽古をつけてもらって…」
事の顛末を蜜璃ちゃんに報告すると、蜜璃ちゃんはなるほどねと頷いた。
「あ、その前に冨岡さんのところにも行きました」
「冨岡さん?どうして?」
「どうしてでしょう…最初に浮かんだのが冨岡さんの顔で…」
そこまで言うと蜜璃ちゃんは驚いて、そしてわたしの左手を両手で握った。
「そうなのね!それならきっとすぐに見つかると思うわ!」
「ほんとですか!明日は音柱様のところに行こうと思ってます!」
………。
三秒程沈黙が流れた。蜜璃ちゃんはまんまるの目をさらに丸くして、ああ!と何かに気づいたように言った。
「急がば回れって言うわよね!応援してるわ!」
「はい!がんばります!」
体はボロボロだけれど蜜璃ちゃんの笑顔を見たら元気が出てきた。お風呂に入ったら食事にしましょうねと笑う蜜璃ちゃんに、私は軽い足取りで風呂場へ向かった。
(201201)