1月 新しい年

年越し用のお蕎麦も食べ終わって、買い込んだお菓子や缶チューハイがこたつの上に広がる。年末恒例の歌番組も佳境を迎え、新しい年までもう数十分といったところ。冬生まれの義勇さんはとても寒がりだ。こたつ布団に肩まで入って一歩も出ようとしない。

「ほんと、こたつ買ってよかったなぁ」
「そうだな」

今年の冬の終わり頃、セールで安くなったこたつを買った。そのときは、まさか義勇さんと一緒にこたつに入ってるなんて夢にも思わなかった。そう考えると、今年はいろんなことがあったなぁ。義勇さんと出会って、恋人になって。手元のチョコレートに手を伸ばすと暖房の熱で少し溶けていた。

民放にチャンネルを変えたテレビが騒がしくなってくる。一本分の缶チューハイのアルコールと、何よりこたつの魔力にうとうとしていると、義勇さんが私の右腕をつんつんとつついた。

「年、明けるぞ」
「え!あ、うん、ほんとだ」

いつの間にかカウントダウンが始まっいたテレビの向こう。カウントがゼロになって、ハッピーニューイヤーの文字とともに上空から映された東京の夜景がキラキラと画面に光っている。

「わぁ、きれいだねぇ」
「そうだな」
「あれ、蜜璃ちゃんからだ」

新年の幕開けとともにこたつの天板の上で震えるスマホ。画面に映された蜜璃ちゃんからのメッセージには、新年のご挨拶と近所の神社にいるから一緒に初詣しようというお誘い、ご丁寧に伊黒さんとのツーショット写真まで送られてきた。

「だって。義勇さんどうする?」

うーんと唸る義勇さんの眉間の皺に、絶対にこたつから出たくないという確固たる意思が伝わる。

「せっかくだし、ね?」

ダメ押しでもう一度お願いしてみると、義勇さんは渋々頷いてようやくこたつから出てくれた。



「2人ともあけましておめでとう!来てくれて嬉しいわぁ!」

歩いて10分ほどのところにある神社は、元旦ということもあってかいつもよりたくさんの人で賑わっていた。待ち合わせ場所の入り口にある鳥居に着くと、蜜璃ちゃんが大きく手を振ってくれた。後ろには伊黒さん。マフラーで顔の半分が隠れていて、きっと伊黒さんも寒がりなんだろうなぁと、隣で同じようにマフラーに顔を埋める義勇さんを見て思った。

「先にお参りに行ってきたらどうかしら?」
「蜜璃ちゃん達は?もうお参りした?」
「2人が来るまでに済ませておいたわ!今なら人もそんなにいないし」

蜜璃ちゃんの言う通り、今なら本殿前には並んでいる人も少ない。チラリと合図するように義勇さんを見ると、こくんと一つ頷いてポケットから手を出した。ポケットの中でぽかぽかに温まった義勇さんの手から、私の冷えた手が熱を奪っていくようで少し申し訳なく思う。

「手袋持ってくればよかったね」
「ほんとにな」

すぐに私たちの参拝の順番がやってきて、お賽銭を投げ入れてお参りをする。去年は義勇さんと一緒に過ごして楽しい一年になりました。ありがとうございます。今年は…チラリと隣を見ると、目を閉じてお参りする義勇さんの綺麗な横顔。義勇さんは何をお願いしているのかな。私は、私は…。

「あ!義勇さん!」

私の声に義勇さんが目を開いてこちらを見る。

「大事なこと、言い忘れてました!」
「何だ?」
「あけましておめでとうございます」

忘れていた大事な新年の挨拶を伝えると、義勇さんが少し笑ってくれた。私は、今年も義勇さんと一緒にいたいなぁ。そう神様にお願いして、一礼して本殿の前を離れると、義勇さんが耳元で小さく呟いてくれた。

「今年もよろしく」


(210124)