微熱

きつく絡み合ったままの指をゆっくりと解くと、私の手の甲には赤くまだらな模様が浮かんで、杏寿郎さんの手の甲には私の爪の痕が残っていた。不器用な私達が、こうして二人で過ごす時をお互いの体に刻みつけているよう。そのまだら模様に気がついた杏寿郎さんが、まるでガラス細工でも触るみたいにかすかに指でなぞるから、くすぐったくて少し身じろぎした。

「ふふっ、くすぐったいです」

はっと触れる指がピタリと止まって、そうすると今度はそっと手のひらが重なった。浅く繰り返していた呼吸も平静を取り戻す。熱くなった体も夜に溶け出すように冷えていき、同じ褥に隠れた杏寿郎さんの腕の中、触れ合ったところだけが温もりを留めていた。

「正直に言おう。力加減がわからない」

困ったように笑うそんな表情を、きっとこの世で私一人しか知らないだろう。この夜が永遠に続けばいいのにと、重なる手を頬に寄せる。

「存外丈夫にできてますよ」
「そんなことはない」

少し熱でもあるのだろうか。見つめ合うだけで体がまた熱さを取り戻し、ふわふわと体が軽くなるような気がする。もっときつく抱きしめてほしい。どこにも行けないように、ずっとここに縛っておいてほしい。

「杏寿郎さん」
「ああ」

優しい声が体の奥に染み渡るよう。温かくて心地よくて、重くなる瞼をなんとか持ち上げる。まだ眠ってしまいたくない。まだこうして目と目が合ったまま、二人の夜に溺れていたいのに。

うとうとする私に杏寿郎さんが小さく笑った。大きな手が私の髪を滑り落ちて、それが何かの合図のように私は目を閉じる。目を閉じる瞬間、杏寿郎さんも目を閉じるのがわかった。

「おやすみ」

その瞼の裏側にも、今私がいるのだろうか。そんなことを思うなんてやっぱり熱でもあるみたいだ。おやすみなさい、杏寿郎さん。夢の中でも杏寿郎さんに会えるような気がして、私は静かに眠りの世界へ落ちていった。


(201224)