01
とある日の午後6時。
久々に定時で仕事を終えて帰宅する途中の出来事だった。
違和感を感じて駅の通路のど真ん中で立ち止まり、その違和感を思わず声に出して読んでみる。
「……とうと、かんじょう、せん。」
さすがに恥ずかしいので小声だが、如何せん立ち止まった場所が場所なだけに、追い越していく人々が向けてくる視界はかなり痛々しい。
それでも気になってしまったのだから仕方がない。有り得ない事が起こっていれば誰でも足を止めるのが普通だろう。
けれども、その違和感を誰もが見過ごし平然と歩いていく。
何度読み返しても文字は変わらず、目が可笑しくなったのかと思い眼鏡を外してまで確認したがそれでも「東都環状線」と書かれていた。
それにも関わらずなぜ、誰も足を止めないのだろう。
単純に疑問が沸いてふと周囲を見回してみるが、目が合うとまるで自分がおかしいかの如く、誰もが不審者を見る視線をこちらに向けてくる。
邪魔だ、と言わんばかりにわざとぶつかってくる人もいたし、不審な目を向けて隣にいる知り合いとヒソヒソと喋っている者もいた。
通路のど真ん中で突っ立っていればそんな事にもなる。
さすがにぶつかったりはしないが、不審な目を向ける事は確実に私もする。
こんな事をしでかして普段であれば、申し訳なさでいっぱいになり顔を俯けて早々にその場を立ち去ったであろう。
そう。あくまでそれは、普段だったらの話だ。
再度、書かれた文字を見上げる。
何度見ても私が見慣れた「山手線」という文字は書かれていない。
では今朝、通った時はどうだったか。
よく覚えていないが、「東都環状線」だなんて書いていなかったはずだ。
もしも、そう書かれていたら気が付いているはずに違いない。
あまりの衝撃に、迷惑であるとは分かっているがその場から動くことは出来なかった。
そこから動いてしまったら最後。元の場所に戻れないような気がして。
「……山手線、どこいった?」
ぽつりと漏れた独り言は、かすかに震えていた。