少し苦手なひと

あの後、結局安室さんはお兄ちゃんのことは知らなかったので何の進展にも繋がらなかった。

分かっていた。期待してはいけない。もしかしたら本当に生きているかも分からないんだから。それでも私は、お兄ちゃんを探すことを諦めないんだ。

「みのりさん、こちらは?」
「あ、これはサンドウィッチ用のラッピングで、持ち帰りもやっているのでその際に利用します。」
「ほう、サンドウィッチはいつもどなたが?」
「店長がいるときは店長が。いない時は私が作っています。」
「なるほど。それはいずれ僕も作るようになるんですかね?」
「そうですね、お願いするかもしれません。」


今日は安室さんと2人きりだ。安室さんは私が教えなくても何でもできた。寧ろ私が教えてもらうことの方が多くて、でもきっとそれを気に掛けてくれているのか、こうやって私に質問を投げかけてくれる。気遣いのできる、顔もいいイケメンだ。

でも何となく安室さんが少し苦手で、私はいつもなるべく目を合わせないようにしていた。やっぱり男性はお兄ちゃんみたいな人が1番良い。

「そういえば、みのりさんのお兄ちゃんのお話。聞かせてもらってもいいですか?」
「えっ。」
「お、ようやく僕の前でも明るい表情になってくれましたね。」
「あっ…すみません。」
「別にいいですよ。19歳の女の子からしたら29歳の男は怖いですもんね。」
「こ、怖くはないです。…ただ、少し、派手な人が苦手なので。」
「…それはお兄ちゃんの影響があるんですか?」
「はいっ、お兄ちゃんは本当にかっこよくて、優しくて、紳士で、知的で…もう世の中の男性はみんなお兄ちゃんを見習うべきですっ!」

そう熱弁すると安室さんはぶっと吹き出して笑っていた。そんなに笑わなくてもいいのに。

「すみませんっ、でもみのりさんは本当にお兄ちゃんが好きなんですね。」
「…はい、世界で1番大好きです。」
「…いつか会えるといいですね。」
「私は、お兄ちゃんと会うために、ここまで来たんです。お金を貯めて、貯金ができたら毛利さんに依頼をして、探してもらうんですっ。」
「…なるほど。」

安室さんは何か考えるようなポーズをしているけど、もしかして私のことバカだとか思ってるのかな。自分から振ってきたのに、もっと関心を持ってほしいものである。

「安室さんにも、会いたい人はいないんですか?」
「…会いたい人、かあ。」

一瞬安室さんの顔が崩れた。その表情はとても寂しそうで、何だかとても苦しそうだった。でもそれはほんの一瞬で、直ぐにいつもの笑顔になってしまった。

「会いたい人はいないですかね。会いたくない人はたくさんいますけど。」
「え、誰ですか?」
「さあ?そこは秘密です。」
「え〜気になります。」


そんな昼下がりの13時。