11
「みのりと会ったのはこちらも想定外だった。まさかもう一度会えるだなんて思ってもいなかったよ。」
「っ…。」
「しかしあの時は潜入捜査をしていた。だから自分の名すら言えず、お前にも近付いた。安室透として仲良くなるにつれて、自分を思い出してほしいという気持ちと、いっそこのまま、という気持ちでぐちゃぐちゃだったよ。…でもまあ、結果としてみのりを苦しめることとなってしまったことを本当に反省している。」
「……。」
「それとこれは言い訳になるが、この1か月間本当に仕事に追われていたんだ。だからこちらのプライベート用の携帯のチェックができなかった。…いや、できたはずだったがその時間を別のことに使ってしまったから結局は自分の責任だな。だからまさかみのりがそんなことになっているとは知らなかった。」
知っていれば、駆け付けた。きっと30分くらいだったら抜けても大丈夫だったはずだ。そんな無理をしてでも、みのりをもう一度失いたくなかった。
でももうそんなことを言っても終わったことだ、俺はもう彼女の一歩を引き留める資格なんてない。これ以上彼女にどうこう言って、待たせるのはやめよう。
「ごめんな、みのり。」
「っ…あの時と、一緒。」
「……。」
「言い訳ばっかりして、謝罪して勝手に身を引いて。何も変わらないんだね。」
そう言われて胸が痛んだ。
みのりに対しては、あの頃から何一つ変わってない自分に情けなさを感じた。
「ねえ、名前。」
「……。」
「あんたの名前、言って。」
「…俺は安室透じゃない、」
「うん。」
「…降谷零だ。」
そう言えばみのりは一瞬泣きそうな顔をしてからくしゃりと笑った。このタイミングで、こいつは笑うと言うのか。
「あのね、私。次に零に出会ったら笑って受け入れたいって思ってたの。」
「っ……。」
「確かにあの時、辛かったよ。だって結婚すると思ってたもん。何に他に好きな女ができたやらお前にはもううんざりやら、散々言っちゃってさあ。」
「…それは、」
それはあの時別れるための嘘だ。他に好きな女ができるはずがないし、うんざりするなんてもっての他。でもあの時はああ言うしかなかった。
「嘘、でしょ?」
「……。」
「だって、零の癖。知ってる?」
「え?」
「嘘つくときね、無意識だと思うけど小指が引きつくの。だから私には嘘は通用しないんだって何度も言ったでしょ?」
「…はは、そういえばあの頃も何度も言っていたな。」
「そうだよ。…だから嘘でも言って別れたかった理由が、あの時には分からなくて。でも、今日ようやく分かった気がする。…零は、夢だった警察官になれたんだね。」
まるで止まっていた時間が動き始めたような、そんな感覚があった。みのりのその顔はどこか清々しく、晴れやかだった。俺はその問いに頷くと、みのりが手を取りギュッと握ってきた。
「頑張ってね。」
「…ああ。」
「体に気を付けてね。」
「…ああ。」
「お元気で、」
もうこれが降谷零として会えるのは最後なんだろう。綺麗な終わり方だったかもしれない。過去を成敗して、彼女は幸せになる。俺は仕事に全うする。これでよかった。
俺は椅子から立ち上がり、もうここにいるべきではないと判断したため玄関に向かった。
「じゃあ。」
「…うん。」
「お幸せに。」
「……。」
俺は振り返ることなく扉を開いた。