セクハラ上司に困ってます

うちの上司は徹夜が続くと壊れる。

「辻川、今からここで欅●46の不協和音を踊れ。」
「いや何言ってんですかあんた。」
「あ?上司の命令が聞けないのか?」
「今何時か知ってます?」
「…6時、か。」
「そうです。朝の6時です。朝日が眩しいなあ!」
「不協和音…。」
「風見さああん!降谷さんを今すぐ仮眠室に連行してくださああい!」

警視庁公安部にゼロの降谷さんが来るようになってから1年。今や信頼している上司であり、皆の理想で希望のような人も、3回目の朝を迎えるといよいよリミッターが切れるらしい。

風見さんの名前を呼ぶも、風見さんだって3徹目だ。虚ろな顔して「不協和音を頼む」と言われ最早崩壊寸前。どれもこれも、指揮官である上司の降谷さんが休まないのがいけない。降谷さんが休まないと我々部下はのうのうと休みを頂けないのだ。

かろうじて私は昨日視察で外出だったため一度家に帰って眠れたものの、終電ギリギリに降谷さんから招集がかかり死人の様な人間が集まる場所に戻ってきてしまった。こんな人たちでも事件が起こり犯人の前では目の色変えて動けるんだから本当にすごい。

私は渋々降谷さんご指名のアイドルの音楽だけ掛け、給湯室に向かった。とりあえず残っている全員分のコーヒー入れて今日は帰らせてもらえるよう降谷さんにそれとなく促そう。

そう思いながらインスタントのコーヒー粉末を混ぜ、トレーに並べてデスクに戻った。

「はい、どうぞ。」
「おー辻川…ありがとな。」
「はい、あーもう風見さん!寝るなら寝てください!」
「起きてるだろ。」
「あんたアイドルの曲に対して変なビート刻んでるんだよやめなさいよそれ!おかしいでしょ!」
「…辻川、降谷さんを頼む…。」
「あーはいはい。もう皆さんには帰ってもらわないと困るんで言いますよ。」

私は降谷さんが座る席まで行くと、顔を机に俯せながら承諾印のみ無心で押してる降谷さんがいたので私はふーっと息を吐きデスクにコーヒーを置いて隣の椅子に座った。

「降谷さーん、もう今日はお帰りになってくださいー。」
「…辻川はいつ上司にものを言うようになったんだ。そんな子に育てた覚えはない。」
「私だってそんなあんたに育てられた覚えないよ!もーいい加減にしてくださいよ。ほら見て、みんなゾンビだから!ね?ゾンビだから!」

そう言って降谷さんはゆっくりと顔を上げ辺りを見渡した。それにしてもこの人、こんなに徹夜続きなのに肌荒れとかしないわけ?目の下の隈はやばいけど相変わらず美形なのが更にムカツク。

「ハア…、コーヒー不味いし帰るか。」
「悪かったな!じゃあ後は私が受け持ちますから。えーっと、これとこれは印だけだからここ置いときますね〜うっわこれはやばい早くやらないと、」
「辻川、」
「なんです?私は申し訳ないですが昨日少し家で寝てきたので元気ですよ。だから期限やばいのだけやっちゃいま、」
「帰るまでのチャージ。」
「っあ、う、」
「ハー…何で女ってこんなに柔っこいんだろうな。」
「こ、こ、んの、セクハラ上司〜〜〜!!!!」

私はギュッと抱き締めてきた上司の頭をパコーンと叩き、無理やり剥がしてその場から逃げた。こんな真っ赤な顔を見られて堪るか。

そんな気持ちとは裏腹に公安部には和やかな空気が広がったことは私は知らない。