デートじゃないぞくそ上司


「今日は新しくできたショッピングモールの視察だ。」
「はい。」
「視察ならお前もっと可愛い恰好できただろ。」
「…はい?」
「何動きやすさ重視!みたいな恰好してるんだ。馬鹿か、馬鹿なのかお前は。」
「いや何ってんですかあんたが馬鹿か。」

降谷さんと一緒に視察なんて降谷さんがうちに来たときに一度行ったきりだから約1年振りだ。忙しい人だし、こういうことは大体風見さんや風見さんと同等のキャリアを持つ先輩たちと行くか、直ぐに回れる範囲内であれば一人で行くことが多かった。

それなのに急に「明日は俺と視察に行くぞ。」なんて言うものだからびっくりだ。これはわたしを試しているとでもいうのか。そんな気持ちで少しドキドキしていたのに、黒スキニーにスニーカー、シンプルなデザインのTシャツを着てリュックを背負った私を見て早速上司の意味が分からない発言に頭を抱えた。

「スカートとか持ってないのか?」
「…持ってますけど。」
「それ履いてこいよ。」
「いや何でそんな視察だけの為にオシャレしないといけないんですか。デートでもあるまいし。」
「こんなかっこいい上司と2人でショッピングモールだなんてデートだろ。」
「いや仕事だろ。しっかりしろ。」
「真面目か。」
「真面目にやれくそ上司。」

前までは降谷さんと喋るのさえ緊張したはずなのに、今やこの様。最近降谷さんは私をおちょくるのが楽しいようで、こうしたセクハラまがいのことをよくしてくる。悔しくて本人に言ったことないけどこんなに綺麗な顔でそういう積極的なこと言ってくるのは正直やめてほしい。

でも私をおちょくってる時の降谷さんは少し楽しそうだから本気にしないで言われてあげようと受け止めているできた部下が私です。もっと褒めてほしいくらい。

それにしても、横目で降谷さんを見ると本当にこの人ゼロの公安の人間なのか疑うなあ…。今日も顔はパーフェクトかっこいいし、恰好もいつものスーツではなく爽やかで今時風な私服だ。周りの女子もチラチラと彼を見ているのがわかる。そんな隣にこんなもさい女がいることをどうか許してほしい。

「じゃあまずあちらですね。」

とりあえず仕事だ、そう思って私はこのショッピングモールの地図を片手に向かおうとしたとき、降谷さんに手を掴まれた。

「まずはこちらだろう。」
「え?あ、いやでもあっちから行った方が効率がいいみたいですが、ってちょ、ちょちょ!何!」
「このワンピースとヒール、彼女が試着したいらしいんですがいいですか?」
「は、はいっもちろん!」
「ちょ、安室さん!?」
「きっと似合うと思いますよ、さ、着替えてきてください?」

そう言ってあれよあれよと清楚な服を扱うレディースファッション店に入り(恐らく)降谷さん好みのワンピースを押し付けられあれよあれよと試着室へと押し込まれてしまった。これはもはやパワハラだ。

しかし着ないで出れば恐らくお店の人にも不信感を抱かせてしまうだろう。私は渋々そのワンピースを着ることにした。膝丈の水色ベースのシフォンワンピースは、普段の私とは真逆でどうにもこそばゆい。ヒールなんて恐らく3年前にあった友人の結婚式振りだ。恥ずかしい。何の罰ゲームだこれ。

「着れたか?」
「あ、はい。」

そう言って降谷さんはカーテンを開けると、じっと私を見た。もう見たらいっそ似合わないと言って笑ってほしい。

「あ、あの…降谷さん、私にとてもじゃないけど似合わない、」
「辻川、」

耳元で私の名を呼んだ降谷さんとの距離はマジで近くて、思わずヒッと声を上げてしまった。すると1つにまとめていた髪の毛のゴムをそっと取り、下ろされてしまった。それに満足したのか、くしゃりと頭を撫でるとそのまま手を引かれた。

「ちょ、まってくださ、」
「すみません、これ一式ください。できればこのまま着ていってもいいですか?」
「はいっもちろん!お客様、とてもお似合いです!」
「え、あ、ありがとうございます、ちょ、安室さん!」
「何か?」
「…(何か?じゃね〜!)」
「とてもお似合いですよ。」

そんなにこやかな顔で言われたって、私は、私は、照れたりしないんだから!!


その後店員さんに顔が赤いことを指摘されたのはその数秒後のこと。