初デート
「けーんまっ、ねえ起きて?」
「……ん、なに…?」
「ねえ私デート行きたい」
「えー………じゃあお昼そこ店のランチ行く?」
「買い物!行きたい!」
「買い物……スーパーってこと?」
「もー!ちがう!ルミネ!雑貨とか洋服とか研磨と一緒に見たいの!」
「……おれはいいよ、お金あげるから1人で行ってきて」
「もう!やだ!研磨と行くの!」
結婚生活も慣れたもので早1年が経っていた。最初お金の管理を任された時に研磨が稼いでる金額に腰を抜かしたのが最早懐かしい。かと言って私たちは大きな贅沢をするわけでもなく、近所の1060円のオムライスと1180円のお肉プレートで満足しているんだから省エネだった。
でも唯一研磨に不満がある。それはデート、デート、デートが少ない!!というかほぼしたことがない。付き合ってた頃は現役グラドルだったしご飯を一緒に食べて満足出来てたんだけど研磨と一緒にいれることが当たり前になった今、私は我が儘になってしまったのかもしれない…けど私は研磨とデートがしたい!
「買い物ってネットじゃ出来ないの?」
「で、できるけど!けど私は研磨とあれかわいいね〜って言いながら一緒に買い物行きたいんだもん!」
「……………」
「だめ?研磨、お願い」
結婚してからも研磨は私のだめ?に弱い。いつまでも慣れないで弱いままでいてほしい、なんてこれも我が儘なんだろうなぁ。研磨から視線を逸らさず手をギュッと握ればハァ、と息を吐き3時間が限界だからねと空いてる方の手で頭を撫でられる。うんっと返事をしてギュッと抱きつくと出れなくなるから、と研磨は身体を起こした。私も直ぐに起き上がって準備をするのに自分の部屋に戻った。
今日はとびきり可愛くしたい。だって記念すべきはじめてのデートだもん。
持っている服をずらりと見つめ頭を悩ます。暖かくなってきた初夏、私は1番のお気に入りのワンピースを取り出した。黄色の小さな花柄のワンピース、多分研磨の前では着たことなかったはず。鏡の前でよし!と気合を入れてメイクに入る。初夏だし目元にラメとか入れちゃったり…まつ毛もくるんとあげて仕上げはマットのオレンジラテコッタ。耳には揺れるピアスをして髪の毛も巻いてハーフアップに結ぶ。うん、可愛い可愛い。
「準備完了〜!」
「…………」
「どう?可愛い?」
「……かわいい、んじゃない?」
「ふふ、やった。はじめてのデートだから気合い入れちゃった!」
「え、まってみのり、それで行くの?」
「へ?そ、そうだけど…?」
「変装しないとバレるんじゃない?」
「えー……もう1年も前だよ?誰も私のことなんて覚えてないって!」
「そんな訳ないじゃん。ほら、こっちかこっち、どっちかしないとダメ」
「えーー」
「どっち?」
「……マスクも帽子も今日の服には合わないしやだ」
「みのり、」
「研磨が前にしてたサングラス、貸して?」
「……あれの方が嫌じゃない?」
「あれがいい。あれなら許す」
「……じゃあ持ってくるから」
研磨はめんどくさそうだったけど私の為にサングラスを取りに戻ってくれた。いつだったか高校のバレー部のヤクさんに貰ったと言っていたサングラス。つけてつけてって言ってそのオシャレすぎるサングラスをつけた研磨は面白いくらいチンピラ感が出てて大爆笑した記憶がある。
「はい」
「ありがと!……どう?チンピラ?」
「いいチンピラじゃん」
「それ褒めてる!?」
「ほら行くよ。タクシーでいける場所?」
「うん!タクシー乗り場まで手繋ご!ふふ、」
「……楽しそうだね」
「超楽しいよ!」
研磨はならよかったと笑いタクシーを捕まえてくれた。ああ、サングラスのレンズが邪魔だなぁ。その顔、何の隔たりもない状態で見たかった、だなんて私研磨のこと今でもずっと大好きすぎる。
「う、わー…!人いっぱいいるね…」
「平日でこれだけいるとか…土日すごいんだろうね」
「ね、あ、ここ見たい!いい?」
「うん」
入ったお店は観葉植物なども並ぶ雑貨屋さん。結婚してから新しい家具を購入したりしてなかったしまあ必要もなかったんだけどこうやっていろんなものが並んでいるのを見ると不思議と購買意欲が湧いてきた。
「みて!これかわいい」
「うん」
「ねこのパンケーキ出来るんだってこれ、買ってみる?」
「いいじゃん」
「……本当に思ってる?」
「思ってる」
「本当?じゃあねこのパンケーキ食べてくれる?」
「うん」
「じゃあ買おうっ!ふふ、嬉しいなぁ」
「………もういいの?」
「まだまだ!あ、ねえサボテン買おうよ〜お花育つんだよ?これと、これ!こっちは研磨でこっちはわたしね!」
「うん、いいんじゃない?」
「……買い物来る前の研磨が嘘みたいに沢山肯定してくれて怖い」
「……文句言った方がいいの?」
「よくないよくないっ!ありがとう旦那様!」
腕に絡み付いたら流石にそれは嫌だったのか離れてと言われてしまったけど結婚1年目だからまだ許して欲しい!とせがめばため息を吐かれながらも許してくれた。こう言う時のため息はだいたい照れ隠しだってもうわかるんだから。
買うものをレジに持っていき何も言わずに財布からカードを出す私の旦那、世界一かっこいいです。
「次はね〜、」
「わ!」
「わ、大丈夫?」
お店を出ると直ぐに小さな女の子がぶつかってきた。泣いてはいなかったからよかったけど迷子かな…?
「ごめんなさい…」
「ううん、わたしもごめんね、痛いところない?」
「うん!大丈夫だよ!」
「よかったぁ、お母さんは?」
「パパと来てるの!でもパパ遅いんだもん!」
「そっか、じゃあ気をつけてね」
「お姉ちゃん、何で外じゃないのにサングラスかけてるの?」
「あ、え?あー……ちょっとした変装、かな?」
「お姉ちゃん、ゲーノージン?」
「うーん…違うんだけどね、」
「でもお姉ちゃん、天使みたいね。サングラス取るとすっごくかわいい」
まさか同性の小さい子供にそんなこと言われると思わなかったので思わず目をパチクリとさせて研磨に視線を向けると何に対しての笑いなのかわからないけど顔を逸らしながら笑っていた。
「でも私から見たらあなたもすっごくかわいいよ」
「ううん、お姉ちゃん本当にかわいい。あ、パパー!こっち!」
「す、すみません娘が…!」
「いえ、」
「見て、パパ!このお姉ちゃん、すっごく可愛いの」
「くっ…、」
「ちょっと研磨!…あ、あのね、」
「………も、もしかして…いや、あの…」
「……?」
「昨年引退された辻川みのりさん、ですか?」
その名前を出されたときにびっくりしすぎて思わずしらばっくれたり似てるって言われるんですとかも言えずはい、と馬鹿正直に答えてしまったことを私は直ぐに後悔した。
だけど男性は驚いた顔から一瞬赤くなり嬉しそうに笑った。
「あ、僕…すごくファンでした。正直引退にめちゃくちゃ泣いて奥さんと喧嘩してしまったりして…はは……」
「…そ、うなんですね、ありがとうございます」
「いやこちらこそ、たくさん夢を見させてもらいました。ありがとうございます」
「パパ、お姉ちゃん知ってるの?やっぱりすごいゲーノージンなんだ!」
「ううん、この人はもう芸能人じゃないんだよ。だけどパパにずっと楽しく生きる為の手助けをしてくれてたんだ」
「……………」
「すごいねえ、お姉ちゃん、ありがとう!」
「…ううん、私は何もしてないから」
「みのり、よかったね。ありがとうって言われたら何て言うんだっけ?」
「……どういたしまして」
「いえ、……どうぞお幸せに」
バイバーイ!と親子は私たちに向かって手を大きく振り行ってしまった。私は研磨の手をぎゅっと握ると行こっか、と言われるけど足がなかなか進まない。
「みのり…?」
「……わたし、…これまで見てくれてる人はバカばっかりで男なんてろくでもないって思ってた」
「……………」
「……でもそんな、楽しく生きる為の手助けなんて思ってる人もいてくれたんだなって思ったら、…なんか、わたしもグラビアやっててよかったなぁって思っちゃった」
「……みのりは多分世の中の半数以上の男の夢だよ。たくさんの人を幸せにするって普通の人じゃ出来ないことだと思う、……だから自分がしてた仕事に誇りをもっていいんじゃない?」
「………うん、」
でも今は俺だけのみのりだけどね、と手を引かれ私たちの初めてのデートは再開された。だけどね、研磨。こんな私を変えてくれたのはあなたのおかげなんだよ、というのは言葉にできなかったけど私は掴んだ手を離さないようにぎゅっと握り返した。