結婚式
今日は私と研磨の大切な結婚式当日。
事情も事情なので親族のみ参列する形でやる小さな式にしようと話していたんだけど元マネージャーや幼馴染のゆうちゃんから式を楽しみにしてると言われたり研磨も同じように友人たちに言われたみたいなのでお互いに特別な人だけ呼ぶことにした。
ウエディングドレスも仕事では着たことがあったけどこんなに緊張なんてしなかった。一緒に試着に行った時も何度も何度も研磨に確認をしてもらったけど研磨は全部いいと思う、という感想だけだったし…う、それもお世辞だったらどうしようだなんて今になってネガティブの発動がすごい。
「すっごいお綺麗ですよ、今旦那さん呼んできますね」
「……はい、」
メイクさんたちがやたらとキャッキャしてるようだったけど苦笑いしか出来なくて表情筋がどんどん死んでいく。すると扉がノックされ鏡越しに研磨の姿が見えた。グレーのタキシード姿なんて当たり前だけど見たことがない。いつもジャージか、ゆるっとしたトレーナーとかラフな格好ばかりな彼が髪も結んで正装に包まれてる姿はあまりにかっこよくて私の視界が歪む。あれ、もしかして涙が流れてるのかもしれない。
「ちょ、なんで泣いてんの!」
「うううう〜だって、だって研磨がかっこよくてえええ」
「は、はぁ?それを言うならみのりの方が綺麗でしょ」
「うっ…綺麗?ほんと?私大丈夫?」
「何言ってんの本当…、誰がどう見ても綺麗だよ」
「誰とかじゃなくて研磨からだけでいいのぉ、うっ、う〜〜〜」
「あらあら、ふふ、メイク直しましょうか」
「…すみません」
「けんま、…もう一回言って?」
「………人いるし」
「あら、私たちのことは気にならさないでくださいね?」
「そうそう、花嫁さんは式前どうしても不安になるから旦那さんしっかりね〜!」
「………………」
「けんまぁ、」
「あーーもう!綺麗だよ!1番!1番以外にカウントする番号もないけど!」
「……うん、研磨もかっこいいよ」
「わかった、わかったからもう…すみません、おれ控え室います」
「ふふ、わかりました。では時間もないし少しお直ししちゃいましょうね〜」
「はいっ」
式までいよいよ後1時間。
▫
「よ〜いい男じゃん」
「いいよそういうの、……みんないるの?」
「おう、みんなそわそわしてる。まあなんてったってみのりちゃんのウエディング姿だもんな〜!いやー楽しみだな〜」
「……失神しないでよね」
「え?失神するほど綺麗だって?」
「………クロならしかねないんじゃない?」
「はは、たしかに。もう見た?」
「まあ」
「まじか。……まじか〜〜」
「おお研磨!」
「うっわ研磨のくせしてカッケーなぁおい!」
「虎うるさい」
あの頃とは違う、みんなスーツを着て大人だ。式には本当に呼びたい人だけ、というので元々呼ばなくてもいいと思ってたけど高校の部活のメンバーから土日で休日が取れたクロ、虎、犬岡とたまたま日本にいたままだった夜久くんが参列予定として来てくれた。(リエーフは泣きながら仕事に行ったらしいと聞いている。)
みんなに囲まれるのは好きか嫌いかと言われると好きではないけど今日はなんだか気分が良かった。
いよいよ式が始まり、緊張しないでしょと思っていた心臓の動きは正常よりも少し早く手汗もかいていた。ああ、やっぱ緊張するんだなと思った。
扉が開かれ慣れない皆んなの視線を浴びてバージンロードを歩く。そして新婦の入場合図と共に扉が開くと静寂に包まれた空気が一変、思わず声が出てしまうほどの花嫁の美しさにみんなが称賛をした。
喋ると煩いのに静かにしているみのりはまるで歩く絵画だ。
お義父さんからバトンタッチをしみのりと目が合うとベール越しでもやっぱり馬鹿みたいに綺麗だった。これは惚気だなんだって言われるから誰にも言わないけどみのりは寝起きだって綺麗だった。何故だか走馬灯のようにこれまでのみのりとの思い出や他愛もない日常が頭を過ぎる。出会った日のこと、ストレートすぎる愛情表現の日々のこと、付き合った日のこと、喧嘩した日のこと、プロポーズした日のこと……ああ、おれはこの人と今後の人生を共にしていくんだ。牧師の言葉を聞きながら改めてそう思った。
「ハァ…疲れた、」
式が終わると直ぐに披露宴。何となく式の良さは分かった気がしたけどとにかく疲れた。正直家にもう帰りたい。
俺は家族に見つからないところで座り堕落していると新郎様〜!?とスタッフさんの声が聞こえた。
「はい…?」
「ああこちらでしたか!新婦さんのドレスのお直しが終わりましたら会場向かいますからね、……あ、もう新婦さんお着替え終わったみたいですよ?いきましょうか?」
「あー……ちょっと休憩しててもいいですか?」
「また綺麗なドレスですよ〜?ほんっと美人さんですよね、うちのドレスのモデルやって欲しいくらいですよ〜!」
「はは、……じゃあ、はい、行きます」
なんとなく圧が凄くてとりあえず行くしかないと思ったのでふらふらと控え室に行き扉を開くとみのりは先ほどの純白から一変して背中がぱっかりと開いた後ろは大きなリボンが垂れてレースが何層にもなったドレスは優しいレモン色。みのりが振り返ると髪型も少し変えたみたいでまた雰囲気が変わる。女の人ってすごい。
「すみません、少し2人きりにさせてもらえますか?5分でいいので」
「もちろんです、10分前になりましたらノックさせていただきますね?」
「ありがとうございます」
スタッフさんたちが退室すると2人きりになり研磨、こっち来て?と手招かれる。なんだろう、多分ここにきて今日初めて2人きりになったから少しだけ緊張する。
「疲れたね、わたしもう歩くの嫌になっちゃう。ドレス動きづらいしヒール高いしみんな見てるし」
「……ふ、見るでしょ、主役じゃん」
「私は研磨に花を添えるくらいの存在だもーん、はぁ…私の友達にもかっこいいって言われるんだろうなぁ〜嫉妬しちゃうなぁ〜」
「……ほんっとどの口が言ってんのさ」
「えー?……ね、研磨、ギュッてしていい?」
「……いいけど」
「ん〜………」
みのりは躊躇なくおれの背中に腕を回しギュッとしがみついた。抱きしてた時に頭を撫でられるのが好きな彼女だけど今はヘアセットもされてるし俺は背中をさする。こんなところ誰かに見られたら羞恥でしぬ。だけど彼女はご満悦のようで機嫌良さそうにまた意味もなく名前を呼んだ。
「私、研磨と結婚出来てよかった」
「……おれも」
「ふふ、だーいすき」
「バカ夫婦の会話じゃん」
「えーバカでいいもん!研磨はいや?バカだめ?」
「……ハァ、…すきだよ、バカ嫁」
「っ〜〜〜バカ夫〜〜!!」
「あっバカそんなぐいぐいしたら髪崩れるって」
「んんん〜っ」
いいタイミングで扉がノックされたので離れるとメイクさんが入ってきたのに早く帰りたい!と頬をぷくっとした嫁、世界一我が儘で可愛いでしょ。