私と彼らとの出会い
新卒として岡崎事務所にマネージャーアシスタントとしてから早半年。
岡崎さんのお兄さんが経営する会社は芸能事務所をメインにやっているというよりは事業の一環としてタレントのマネージメントプロデュースを行っている。事務所内のスタッフは何と驚くことに岡崎さんと経理・事務スタッフのパートさんの2人と皆も知ってるあの超アイドル、Re:valeの計4名。
そんな中で恐らく耐えきれない人材不足による補給で初めて求人を出したらしく、後から岡崎さんに聞いた話によると倍率はうん十倍………。まあ9割Re:valeのファンの女性で溢れただけで三次面接まで「ファンではありません」と嘘をついていた人たちもサプライズ(もちろん意図的)でRe:valeが面接に登場した瞬間崩れ落ちる女性ばかりでそんな中残ったのが私だったらしい。
それもそのはず、私は別にRe:valeのファンなどではなかった。というか寧ろ苦い思い出しかない。理由は聞いてほしくないけど、あえて言うならば元彼が大ファンだったのだ。そう、私は元彼が大好きで大好きでそりゃ大好きで。そんな大好きな元彼が好きなものは必然的に私の目にも耳にも入ってくるわけで。当時元彼には言えなかったけど正直音楽にもアイドルにも興味がなかった私にとっては曲名もアイドルの名前も覚えることに時間が掛ったけど、元彼と話が合うのはとても嬉しかった。そして元彼が見つけてきた求人に2人で応募をした。結果は先ほど言った通り、残ったのは私だけ。そんな中に元彼に言われた言葉は衝撃だった。
(「俺は本気で千を愛していたのに……何でお前が受かるんだよ!お前なんてRe:valeのことを本気で好きでもないくせに……ふざけんな!」)
この時の私の感情はこの先もきっと言葉にできないと思う。そう、元彼はどうやら本気でRe:valeの千をアイシテイタ、らしい。ただのゲイだった。それからあっという間に私の心も冷め、あんなに大好きだった彼ともあっけなく別れることとなり、その後就職活動を続けたものの力が入らず10戦連敗。仕方なく最初に受かっていた岡崎事務所にそのまま就職が決まったのが全ての始まり。
初日は本当に地獄だった。
ーー半年前。
「あ、あの………」
「あ、もしかして辻川さん?ごめんね、今ちょっとバタバタしてて、あー百くん準備出来ました?!」
「おかりーんこっちは準備OKだよ〜んってあれ?お客さん?」
「わああ僕待ち!?ごめんね、あーえっと辻川さんもごめんなさい僕が教育係なんだけど、」
「おかりんが教育係?何の話?」
「え、おかりん先生なの?やっべー似合わない!」
「もう〜2人ともそう言わないでくださいよ〜、あああ時間がやばい!2人にもちゃんと後でご紹介するので辻川さん、ひとまずそちらにいる田中さんに簡単な事務業務を聞いておいてください!あと6時間後に戻るので!」
「6時間後って、あの勤務時間18時まででは……」
「じゃ!ごめんね、お待たせしました行きましょう!」
「はーい、じゃあね辻川さんっまた後で〜!」
「百、携帯鳴ってる。」
「嘘!?あ、万さんからラビチャだ!みてみて千!」
可笑しい、可笑しいでしょう。こちとら緊張した面持ちで初日の出勤をしたにも関わらず教育係は行ってしまった。残った50代の優しそうなパートさんが可哀そうな目で私のことを見ている。
「ごめんねえ、うちこれしかいないからいつもバタバタなのよ。」
「……あの、すみません。宜しくお願い致します。」
「いいえ〜あまり硬くならないでねえ。」
この日から私の相談相手は田中さんになった。
「改めまして私はRe:valeのマネージメントをしている岡崎といいます!今朝は本当に申し訳なかったです。」
「いえ、お忙しい中こちらも申し訳ございませんでした。辻川みのりと申します、本日からお世話になります。」
「ありがとう。じゃあ紹介しますね、こちらが我が事務所の看板アイドルRe:valeの、」
「春原百瀬こと百と!」
「折笠千斗。」
「になります!千くん、百くん、こちらは新しくマネージャーアシスタントとしてついてくれる辻川みのりさんです!」
「辻川みのりと申します、宜しくお願い致します。」
「みのりちゃん硬い〜!俺のことは百って呼んでね!」
「………宜しくお願い致します、春原さん。」
「あーだめだめ!俺本名で活動してないから百って呼ぶよ〜に!」
「………岡崎さん、」
「まあそういうことで芸名である百くんと千くんと呼んであげてください。」
「……分かりました。」
「はいリピートアフターミー?」
「……百、さん。」
「こちらは?」
ぴくッと思わず眉が動く。百さんは、まだいい。ライブ映像など見ていても印象がよかった。でも………、
「辻川さん、僕のこと見ないよね。」
「っ……、」
「あ、もしかして千のファンだった?」
「違う!」
この日1番大きな声で意見すると3人は驚いたように私を見た。ああもう、見るな。見るなRe:valeの千。
「あ、すみません………。」
「僕何かした?辻川さんに会うの今日が初めてだと思うけど。」
「………いえ、すみません。なんでも、ないです。」
「逆に気になる。」
「気になさらないでください。」
「言って。」
「すみません。」
「言って。」
「ぐっ……、お、岡崎さん!本日は何か作業があるんでしょうか?」
「い、いや!今日はひとまず挨拶だけと思っていました!」
「ねえ言ってよ。」
「じゃあ終わりですよね。私出来る限り残業したくないのでお先に失礼します。」
「あ、ああお疲れ様!」
「ちょっと。」
「あーまあまあ千!みのりちゃん!また明日〜!」
「お疲れさまでした。」
こんな始まりから半年間。
マネージャーアシスタントとしては十分に仕事が出来るようになったけれど、未だに私は千さんに苦手意識を持ち続けていた。