苦手、やっぱり嫌い

「辻川さん、今日現場頼んでもいいですか!?」
「岡崎さん営業ですか?私そちら行きますよ、先日も案件もぎ取ること出来ましたし。」
「あーでも顔見知りなんだ、久しぶりに僕もご挨拶行かないといけないので出来れば自分が行きたいかなあ……なんて、え?えええ?何その顔!もういい加減彼らに慣れてくださいよ〜!」

思い切り嫌だと顔に書かれていたのか、上司である岡崎さんの前でさえ嫌な顔をしてしまう。それもそのはず、私はやっぱりRe:valeの2人に今でも苦手意識が無くなることはなかった。

「おっはよーございまーす!」
「おはようございま…あ、みのり、また嫌な顔してる。」
「本当だ!え、何々どうしたの?!」
「……おはようございます。別に、嫌な顔してないです。」
「してるっしょ!あはは!」
「あー今日は辻川さんに現場をお願いするのでお2人は準備が出来次第GOしちゃってください!」
「え、おかりん来ないの?」
「ぐ…すみません千くん。」
「ついにみのりちゃんと3人での現場デビューってわけか!ってだから嫌な顔してたってことぉ!?」
「だから嫌な顔なんてしてません。」
「してるね。」
「してません。」
「してる。」
「あーまた始まった千とみのりちゃんの言い合い!今日俺しか止める人いないってことじゃんおかりん〜!」
「ごめん百くん……現場のことは任せます……。」

マネージャーアシスタントである自分でなく百さんにそういうこと言う?岡崎さん……。
でも直ぐに顔に出てしまう私にも問題がある、笑顔だ笑顔…そう思い無理やり笑って「準備が出来たら行きましょうか〜!」と言えば天敵:折笠千斗に鼻で笑われた。絶対呪う。



「安全運転でお願いしま〜す!」
「はい、シートベルトしてくださいね。」
「あれ、ほらみのりちゃん笑顔笑顔!さっきの笑顔!」
「……は〜い。」
「不自然。」
「………チッ。」
「舌打ち。」
「舌打ちしたねえ。」
「気のせいです。行きます。」

岡崎さんのいない車移動がこんなにも地獄だとは思わなかった。
その後もチクチクと2人に攻撃されながらも無事現場入りした。今日は雑誌の撮影にMVの衣装合わせ、映画告知コメントの3本立て。会社の定時は一応18時。
「(まあ、絶対21時は回るよなあ…ブラック会社め………。)」


「Re:valeのお2人、お忙しいところありがとうございます〜!ではインタビュー行っていきますのでよろしくお願いいたします!」
「はーい!Re:valeの百です!よろしくお願いします!」
「千です、よろしくお願いします。百、前のめりになりすぎじゃない?」
「あ、そう?ついつい、えへへ。」
「ふふ、僕の隣にちゃんといなよ、百。」
「もっちろん、ダーリン!」
「そうだよハニー。」
「ひゃあ…本当に仲がいいんですねえ〜!!ドキッとしちゃいましたぁ!」

何がドキッとだドキッと。ぞわっとの間違いじゃないのか。
こうしたインタビュー時のマネージャーの立ち位置ほど苦痛なことはないだろう。どうせなら座って待たせてほしいところ、絶対に立ちっぱなし。足がむくんだ時に整体に行ったら会社のお金でどうにか出来ないかな。

「(今度岡崎さんに……いや岡崎さんに言っても意味ないか。社長に福利厚生の相談出来ないかな……)」
「なあなあ千、みのりちゃん、見て。また何か考えてる。」
「……そうね。休憩の今、サポートするのがマネージャーじゃないの普通。」
「はは、だよなぁ。でも面白いな〜みのりちゃんって!」
「百は甘い。」
「でも千も結構気に入ってるよね、みのりちゃんのこと!」
「あっちはそうじゃないと思うけどね。」
「す、すみません!休憩だと気が付かず…何か必要なことありますか?飴とかいります?」
「飴ちゃんいるいる〜!ははっみのりちゃんさっき何考えてたの?」
「え?あ、いえ………。」
「また僕の悪口でも考えてたんじゃないの?」
「違います。」
「嘘。」
「本当です。」
「どうかな。」
「あーもう終わり!終わり!ほら休憩も終わりだから!」

百さんが間に入って何とか熱を覚ませ、2人はまたインタビューに戻った。戻るときも千さんからの冷たい視線は続き、私も同じように視線を一瞬送ってから目線を反らす。こんなことして子供かって思ってる。仕事だから上手くやりたいとも思うのに…。
(千さんも千さんだ!私のことなんて無視して突っかかってこなければいいのに。)

インタビューは無事終わり、お昼ご飯を食べた後に次の現場に移動をする。最終現場が終わり、事務所に帰る車内は行きと違って静かだった。それもそうか、この人たちは朝から10時間近く愛想笑いを続けてきたんだ。
私なんかと比べ物にならないくらい凄い。

「ねえ。」
「……はい。」

百さんの寝息は聞こえていたけど、この人起きてたのか。

「何でこの仕事就いたの?」
「………答えないといけませんか?」
「いけません。」
「……たまたま見つけた求人で、」
「そういう見え透いた嘘はいらない。」
「くっ……じゃあ、言います。私の、元彼が……、」
「元彼?」
「元彼…が、Re:valeのファンで、それで求人、一緒に申し込もうってなって……、」
「あ、もしかして佐藤聡?」
「っそ、そうです!」
「ああ…あの人、うちの事務所で要注意人物になってるんだよ。」
「はい!?」
「あの人僕の差し入れに精子がついたディルド送ってきたの。気持ち悪いでしょ?」
「はあああ!?」
「え!?なに!?」
「そ、そんなの……、」
「だからマネージャーなんて受かるわけがないよ。で?そんな変態と付き合ってたみのりがまさかの受かっちゃったわけだ。もしかして俺が受からないでお前が受かって可笑しいだろとか言われて別れちゃったとか?」
「っ………、」
「あの、何の話?」
「百は黙ってて。」

言葉にならなかった。
ただゲイだった、ということであればまだ笑いながら話せたかもしれないのにとんだ変態だったなんて……、本当にそんな男と付き合ってた自分が情けない。情けないと分かっているのに、それをこの苦手な、いや嫌いな千さんに言われることが悔しくて悲しくなった。

「さ、いしょはいい人だった。すごく好きだったし、私のことも好きでいてくれた。だけど、いつしかRe:valeのファンになってから彼はおかしくなって…、千さんの言った通りマネージャーも私が受かってから態度が激変して、千さんのことを愛してるってゲイ発言されて……私だって、わたしだって、」
「え、ちょ、みのりちゃん!?泣いてる!?」
「自分が、情けないですよぉ!」

誰にも言えず蓄積していた気持ちが一気に爆発して涙も溢れた。ここ数年、誰かの前で泣いたことがあっただろうか。運転中のため涙を拭うことも出来ず、流しっぱなし垂れっぱなしでまるで子供のようだった。

「止めて。」
「へ?」
「いいから車、止めてよ。」
「っ……すみません、止めます。」
ハザードランプをつけ車を路肩につけると、直ぐに千さんは車を降りて助手席の扉を開き助手席へと座る。大泣きしていた私の今の顔が丸見えだ。
「なっ、み、見ないでくださいっ。」
「ぐちゃぐちゃ。ほらティッシュ。」
「い、いいいです。袖で拭きます、」
「汚いなあ。ほら。」

千さんは私の腕を引っ張り自ら鼻にティッシュをぐりぐりと押し付ける。
その姿を見て百さんがおお、と声を上げる。見てるなら助けてほしいくらいだよ百さん。

「うぅ"〜〜、そんなに私のこと嫌いならほっといてくださいよぉ、」
「誰が嫌いだって言った?」
「だって、千さんは、」
「僕はみのりのこと嫌いだなんて一言も言ってない。ねえ百?」
「お、おう。言ったことないよねえ?」
「むしろ嫌ってるのはみのりのほうじゃない。」
「ぅ、だって、元彼のこともあって、なんか…無理で……、」
「元彼と僕って関係なくない?」
「大ありですぅぅぅ、」
「理不尽。」

確かに、確かにそうだ。
ただ元彼の一件から苦手で嫌いになっていた。
でも私は千さんに直接嫌なことは、……まあ多少はあるけどほとんどされたことがない。
だけどやっぱりちらりと視線を向けるとその綺麗な顔がやっぱりトラウマを感じてしまう。

「私、やっぱり無理だったんです。千さんの…Re:valeのマネージャーアシスタントなんて、務まるはずがない。」
「何で?今できてるじゃない。」
「でも、私は、千さんが嫌いなんですぅぅ〜〜、」
「……………」
「嫌いな人に対してめちゃくちゃストレートに嫌いっていう人初めてみた……。」
「うっ、すみま、っぐふ、」
「むかつく。」
「へ?」
「むかつくって言ってるの。」

鼻を掴まれながら千さんがあからさまに不機嫌な表情を見せる。

「でも辞めるのは許さないよ。」
「え、」
「辞めても転職先調べて嫌がらせのように追いかける。」
「!?な、」
「それが嫌なら嫌いな僕の傍に、好きになるまでいてよ。」
その時のトップアイドルのドヤ顔と言ったらとんでもなかった。