完
今日は補講最終日。つまりりょーちんと一緒に帰るのも最終日だ。
今日は体育館の関係で部活が18:00とかで終わってしまうらしく逆にりょーちんをお待たせする形になってしまった。お疲れ様でした、と先生が出ていくと私も大慌てで準備して教室を出る。そして下駄箱につくとりょーちんの姿が見えた。ーーーだけどその奥には女の子の姿があった。
「じゃあまたね、宮城くん」
「っす、あざーっす」
「次も期待してるからね、ふふ」
「いやいや、まあ見ててくださいよ」
楽しそうに談笑しているところをなかなか割って入っていけない私は2人の会話が途切れるまで膝を抱えてしゃがみ込んで待った。
見たくない、聞きたくない。りょーちんのこと、私も好きなのに、そんな風に楽しそうに笑ったり照れたりする顔は私に向けてくれない。だったら最初から知りたくない。
「おい」
不機嫌そうな声。
りょーちんは私に気が付いたのか声を掛けてきた。それもとびきりドスの効いた、イラついてるような声にも感じた。
「来てたんなら声かけろよ、俺待ってたんだけど」
「………ごめん」
「なぁ、いい加減聞くわ。お前どうした?前はこんなんじゃなかっただろ」
「……………」
「俺が喧嘩してた話とかしたら怖くなったとか?」
「っちがう!りょーちんは、……りょーちんは、優しいよ」
「………じゃあ何」
「………言えない」
「は?なんで」
「………りょーちんの、邪魔したくない」
「邪魔って何が?意味わかんね」
「りょーちんがっ……、」
好き。
たった2文字が言えなくて、苦しくて、私は涙を流して上履きのまま外へとダッシュした。りょーちんに本気を出されたらきっと直ぐ捕まってしまうだろう、だけど、それでも今は逃げたくて、逃げなきゃいけなくて、とにかく人のいないところにと帰り道とは逆方向の海岸沿いに向かった。
真っ暗な海は少し怖くて、1人では心細くて、身震いする身体を無理やり走らせた。道幅が狭くなったその道に入った瞬間、砂に足を取られ勢いよく転げ回った。突然の衝撃に直ぐに立ち上がることができず砂に顔をうつ伏せになった状態から身体を横にずらして肩で息を整える。
かっこわるい、ださい。こんな姿、クラスメイトに見られたら絶対に引かれる。朝転けて砂から這い上がれなくなってたと黒板に書かれて晒し上げられるかも。早く立たないとなぁ、と思っていたその瞬間。
「っこのバカ!!!!!」
りょーちんの声がする。
私は身体を無理やり起こされ身体についた砂を振り払われる。その間ずっとりょーちんは怒っていた。だけど何も耳に入ってこなくて、虚しくて、でもどこかこうして見つけてくれたのが嬉しくて、なのに私のことは好きになってくれないりょーちんが嫌で、涙も鼻水も止まらなかった。
するとりょーちんはあーーもう、と自分の頭をぐしゃりとかき乱した直後、私の唇に自分の唇を重ねた。
キス、だ。
これはドラマとかで見たことがある、キスだ。
直ぐそばでザザーっと波の音がする。走った後で火照った頬と弾む息、頬を包み込むようなりょーちんの手、梅雨の時期でしっとりとした唇、そしてりょーちんの体温。
何が起こっているのか、分からないなんて言えない。私はりょーちんと、ーーー好きな人とキスをしている。
触れ合っただけで離れた唇は以上に私の目に映るりょーちんの熱のこもった視線が心拍数を上昇させる。
「りょ、ちん」
「謝んねえ」
「……な、にが」
「キスしたこと。謝んねえから」
「…………」
「大体お前が悪い。走んのおせえのに逃げるし、転けて姿見えなくなって動かなくなってまじで焦った。死んじゃうかと思った」
「っ……ご、めんなさい」
「怒ってんのに聞く耳も持たねえ。泣いてばっかで人の話聞きやしねえし」
「ごめ、」
「だから謝んねえ」
「っ…………」
「……でも、俺は好きでもねえ女にキスはしねえ」
「………それ、って」
「〜〜だから!好きでもねえ女に!キスしねえっつってんの!!」
つまり、りょーちんは、私のことを……好き?言葉の意味は理解できても受け入れることが出来るかどうかは別だ。私はぽかんとしているとあーーもうクソ鈍女!!と大きな声を出されたかと思ったらぎゅっと抱き締められる。借りてるジャージから香るりょーちんの匂いと同じ、私の好きな匂いだ。
「みのりが好きだ」
「……家族的な、意味で?」
「ちげーし、……レンアイ的な意味でだよ」
「だって彩子ちゃんは、」
「アヤちゃん?」
「あんなにデレデレしてるじゃん!」
「あ?してねえし」
「してるもん!鼻の下伸びてるもん!」
「アヤちゃんは天使で女神、それだけ。恋愛的な目では見てねえの。わかんだろ」
「わかんないよっ、だって私には照れたりしないもんっ」
「……精一杯、へーきなフリしてんだよバーカ」
ああ、そっか。りょーちんも同じだった。
私はりょーちんの胸を押して一度離れ目を見る。本当だ、こんなにも熱をもった瞳を見るのは初めてだった。そっかそっか、りょーちんも平気なフリ、してたんだ。
そう分かった瞬間、私は背伸びをしてりょーちんの唇にまた自分の唇を重ねた。セカンドキスも、ーーーこの先もきっと、私にはりょーちんだけだ。
「なっ!」
「フリが上手だったんじゃないの?」
「そ、っっ〜〜れは反則」
「えへへ、りょーちん、わたしもだーいすき」
首に腕を回して抱きつくと私よりも強い力でぎゅっと抱きしめられた。それは昔、4人で撮った写真のソーちゃんがしてくれた時みたいな暖かくて大きな抱擁だった。
私の初恋は、目一杯不器用で、だけど何にも代え難い温かくて幸せな愛だった。
fin.