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 名前を呼ばれて振り返った。呼びかけた人物はまだ整っていない息のまま、まっすぐにこちらを見つめている。
 その背後ではチームメイトたちが肩を竦め、呆れたように苦笑を交わしていた。彼らの視線には、そうすることを分かっていたと言わんばかりの柔らかさがある。

「またサッカーやろうぜ」

 青空の下で、その言葉だけがやけにくっきりと響く。自分たちを縛っていたものは確かに消えたが、これから先のことは何一つ決まっていない。それでも迷いなく差し出される声音に、思わずため息をこぼしそうになる。
 本当にそればかりだと呆れながらも、その単純さに何度も引き戻されてきたことを知っていた。理屈ではなく、ただボールを追いかけることを選び続ける姿に、周囲はいつの間にか巻き込まれている。

「うん、またやろう」

 短く返すと、相手は満足したようにうなずいた。理由を求められることも、確かめられることもないまま、その約束だけがあっさりと成立する。先ほどの試合中、余計なことを考えずに走った時間が身体の奥に残っている。息が上がる感覚も、足が重くなる感覚もどこか懐かしく、そして確かに楽しかった

 歩きながら空を見上げると、雲はほとんど流れていない。視界を遮るものがないぶん、先の見通しのなさがそのまま広がっているようにも思えたが、不思議と足取りは重くならなかった。
 どう転ぶかは分からない。それでも、もう一度くらいなら、自分の意思で選んでみてもいいのかもしれないと、そんな考えが頭の隅に残った。