一言

うちはツキの死は偽装かも知れない。希望とも言える疑念を抱いてしばらくが経った。その疑念を誰かに話す事は無かったので、その後の進展はあるはずもなく、相変わらず忙しない日々を送っている。うちはサスケの里抜けに、重犯罪者の収容施設からの囚人の脱獄、そしてサスケを探しに行かせろというナルトの付き纏いに辟易していた夜。登録の無い忍鳥が確認されたとの報告があった。青みがかった灰色の身体をしている青鷹だという。

私の立場としては、警戒せざるを得ない。しかし、青鷹には一人、心当たりがある。報告に来た者を下がらせ、大きな窓から空を見上げると、大きく旋回していたその青鷹であろう影が降下し始めた。


「危険です、離れて下さい」
「……いや、問題ない」
「五代目…!」


こちらへ向かってくる青鷹から私を守る様に現れた護衛の暗部を躱して、“彼女”は差し出した私の腕に止まる。


「久しいね、凪。…元気だったか?」


“彼女”── 凪は少し驚いた顔をした。
嘴を指先の裏で撫でてやると、心地良さそうに目を細める所は変わらない。くるる、と喉を鳴らして返事をしたかと思った矢先、彼女が器用に差し出して来た片足には文が結び付けられていた。

(やはり、死んでなかったようだね、あのバカは…)


「ふふ…お互いあいつには苦労するな」


結び付けられていた文を取り、やって来た大窓の外へ凪を放つ。そのまま空高く飛び上がった彼女はすぐに見えなくなってしまった。

相変わらず優秀なようだ、と感心していたのも束の間、仮面の下から説明を求める視線を感じて苦笑する。それでは仮面の意味が無いぞと苦言を呈したい所ではあるが、未登録の忍鳥が里長の腕に止まったのだ。理解できないのは無理もないので、それは言わないでおく。


「心配ないよ。昔馴染みの愛鳥でね。どうせ直接コレを渡すよう言われたんだろうよ」


凪は確かに未登録の忍鳥だ。あいつが秘密裏に契約し、時折私の元へ文を届けてくれる存在。何度その文をいらないと言っても聞かなかった。

ずっとそうだった。あいつは男女問わずに振り向く見た目と、忍であれば誰でも憧れる実力に人格、それらを持ってすれば相手など腐るほどいたであろうに、私などに構ってくる。そして私の心を乱すだけ乱して笑うのだ。きっと今もそうなのだろう。凪を遣わせたのがその何よりの証拠。

凪は、うちはツキの忍鳥だ。


「なんです、それは」
「……さしずめ恋文、と言った所だな」
「はい…?」


小さく折り畳まれた紙を開く。柔らかく香った匂いは懐かしく、たった一言“必ず戻る”とだけ書かれたその文字は、見間違うはずもなくツキの筆跡で。私が中身を確認した途端、火がついてそのまま消えた。

疑念が確信、事実に変わる ──

やはりあの日のあの言葉はそういう意味だったのだろう。こうして同じ言葉を送って来たのもそういう意味なのだろう。戻って来たら、言ってやりたい事が山程ある。聞きたい事も、聞かせたい事も同じ様に山程に。


「とにかく、あの子の事は気にしなくて良い」
「ですが…」
「もう下がれ」


やはり、仮面の下で納得の行かない表情をしているのが分かる。けれどもこちらに話す気はなく、それを察してか言われた通り持ち場へ戻って行った。

(ああ、…どうしようもないな)

ツキが生きている。何度も会いたいと願い、求め、想い続けて来たあいつに会える。ただそれだけで燥いでいる自分が居る。込み上げてくる感情を何度押し殺したか分からない。大蛇丸にさえ見透かされていた想いは、今度こそあいつにぶつけてやろう。


「懐かしのが遊びに来ておったようだのォ…」
「居たのか、自来也」
「ついさっき里に戻ったら凪が見えたんでな。どうせお前の所だろうと急いだんだが、一足遅かったか」


緩み、にやけてしまう口元を抑えながら、任務から戻って来た自来也を迎える。多分、抑えていても無駄ではあるのだろうが、そこは私の自尊心が許さない。


「やはり、生きていたか」


やはり、ということは自来也も少なからずあの件に関しては疑念を抱いていたのだろう。もしかすると、私よりもずっと多く戦場を共にした自来也だからこそ、疑念というより確信に近い何かを感じていたのかもしれない。

(…それに関しては多少、腹が立つがな…)


「ああ…、必ず戻る、だとさ」
「…お前にそう寄越したのなら、本当に必ず戻るだろうよ。あいつは昔から綱手にベタ惚れだったしのォ…」


そんなことは言われなくても分かっている、とひと睨みすると、素直じゃない、と苦笑される。それこそ、言われなくても分かっているので、もう一度睨みつけておくことにした。

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