ひだまりのキッチン
ふわり。どことなく人肌を感じて、少年は目を覚ました。
ベッド際の小さなテーブルに置いてある時計はAM:6:00を指している。いつもよりもだいぶ早くに意識が覚醒した少年────苗字名前は、隣で眠るギルガメッシュを横目に自分の身体の違和感に気が付いた。
昨夜はそう、少年としては些かまだ慣れず羞恥を覚える行為────要はギルガメッシュと肌を重ねていたのだが、その寝起きにしては身体がすっきりとしていた。名前は体力がそこまでないので、快感のあまり行為の最中に意識を飛ばしてしまうことも多々ある。
しかし、体液という体液でぐしょぐしょになった身体はしっかりと清潔感を新たにしていて、簡易的にではあるがきちんと新しい下着が履かされている。上半身は、名前が風邪をひかないようにするためかギルガメッシュがいつも着ているシャツが着させられていた。
(王様の匂いだ、)
好きな人の匂いを寝起きに感じると、頬がどことなく綻び、安心して再び瞼が重くなる。
不意にギルガメッシュが身じろぎ、その長い金色の睫毛を揺らしてゆっくり目を開けた。寝癖がついていない髪を枕に沈めながら、掠れた声で名前に話しかけてきた。
「起きたか」
「おはようございます、王様。あの、後処理王様がしてくれたの?」
「貴様はすぐ意識を飛ばすからな。全く世話のかかる」
ギルガメッシュは呆れたような、しかしどこか面白げにクツクツと喉を鳴らして「もう少し体力をつけろ」だの、「あの程度で気をやっていては」だの言っている。
色々と言っているが、それでも名前の身を案じていて、その上でギルガメッシュはもっと気持ちのいいことを愉しもうとしている。気持ちのいいことに関しては名前は気恥しいが、身を案じてくれているのは素直に嬉しいことだった。
「でも、してくれたんですね」
「……」
「ありがとうございます」
にこ、と微笑むとギルガメッシュはらしくなく押し黙った。ふん、と一言いってそっぽを向いてしまったが、これは照れ隠しなのだろうか、名前はよくわからない。それでも、悪い気持ちはしない。声のトーンがいつもよりも少しだけ優しかったのだ。
そこで綾は気付く。ギルガメッシュは服を着ていない。「王様!」と、綾は慌てて借りていた服を脱ごうとしたが、「良い」とギルガメッシュは名前の手首を柔く掴んだ。
「え?」と頭の上にクエスチョンマークを浮かべるとギルガメッシュは掛け布団を捲る。再びクツクツと喉を鳴らして「下は履いているのでな」と笑う。
「そ、そっか」
名前は吃った。目のやり場に困っていた。逞しく、それでいて無駄なくついた腹筋から目線を下へやるときちんとズボンを履いているもののボタンは開けっぱなしで、その下には布がない。つまり下着を履いていない。その姿がやけに色っぽくて、心臓が少しばかり高なってしまった。
せめてギルガメッシュが寒くないように、布団を掛け直し、再びベッドに横になる。ふたり分の体温が染みた布団はあまりにあたたかい。背を向けたままのギルガメッシュの背中を名前はひどく愛おしく思って、その背中にとん、と額をくっつけると一瞬ギルガメッシュの身体が何故か強ばった。きゅ、と抱きつくように手を回し、すりすりと頬擦りをして、「これなら寒くないだろ?」と聞くと、ギルガメッシュは黙ったまま「不敬よな」と笑った。
そうだ、と名前は思い立つ。半身を起き上がらせて、「朝ごはん」と呟いた。
「朝ごはん何がいいですか?」
「なんでも良い。我はもうしばらく寝る故な」
「カーテンは開けましょうか」
「少しだけ開けろ」
「わかりました。……王様、このシャツもう少し借りてもいいかな」
「好きにしろ」
「ふふ、ありがと」
そんな会話を交わすと、名前は裸足のままキッチンへ向かった。
もう暫く寝る、ということは自分の後処理をしたおかげで少し寝不足なのかもしれない。ギルガメッシュは二度寝を深く眠るタイプではあったので、いつものことだが寝覚めが少しでもいいように、しかし刺激し過ぎないように、ミルクを入れたモーニングティーを用意するかと思いながら名前は伸びをした。
「ミルクティーなら王様も緩やかに目覚めるしな」
さて、問題の朝食である。
モーニングティーを用意するので、洋食であることは決定だ。眠り足りなくても胃に入るようにしたいところである。
パンは食パンとロールパンの二種類があったが、ロールパンだと食パンよりは少しバターの味が強いので、ミルクティーの味を損ねないよう食パンをチョイスし、トースターにかける。
主食は栄養価がそれなりにあって自分好みに味付けもしやすいベーコンエッグに決めた。名前はオーバーミディアムが好みだが、ギルガメッシュはサニーサイドアップが好みだったのでギルガメッシュの分が冷めないようにまず自分のものを先に焼き始めた。
「っと、お湯とミルクを沸騰させなければ」
やかんに水を入れて火にかけ、電子レンジにはカップに入れてたミルクを入れて、いよいよギルガメッシュのぶんの目玉焼きを焼く。
油っこくならないようにキッチンペーパーで軽くフライパンを拭き、小気味いい音を立ててパキッと卵を割る。黄身は半熟を心掛けて、固まりすぎないうちにフライパンから皿によそい、ベーコンは脂身の少ないものを選んだ。
「お、パンが焼けた。ミルクもか」
ベーコンを皿に装ったところでパンが焼きあがり、ミルクも同様に温まった。
消化と見栄えがいいようにレタスを入れた野菜のサラダを入れようと名前は野菜を洗い始める。トマトはフォークが刺さりやすいように二等分、きゅうりも同様に軽めの乱切り。夕飯のあまりである食感の良い人参のピクルスを添えた。
湯も沸騰したので、湯をティーカップに三分の一ほど入れて容器を温める。
「王様呼んでこよう」
振り返ると、ギルガメッシュは壁にもたれかかって「良い香りがした故な」と笑った。
「王様のぶん運びますね」と名前が言えば、今日は良いと言われてしまった。しゅんとしている名前に「今日は、だ。明日は貴様がやれ」と続けた。
暖まった容器の湯を流し、陶器のティーポットにギルガメッシュお気に入りの茶葉と湯を入れて、そこからティーカップに紅茶を注ぐ。
名前のぶんはストレートでもいいが、ギルガメッシュはミルクティーだ。紅茶に温まったミルクを流し入れてマドラーで混ぜ、完成。
「相変わらずメニューは単調だが味は前よりマシになったな」
「王様が教えてくれたからな」
「あくまで王を立てるか、躾が行き届いたな」
「じゃ、食べましょう」
ひだまりのリビングで、
二人はいただきます、と、手を合わせた。
fin.