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 突き刺すように冷たい風が少しずつ優しさを帯び始めている。白味がかった青空を背景に、桜の花が咲いている。満開の桜の隙間を潜り抜け、柔らかい黄色の光が足元に零れ落ちている、春。
 入寮の手続きを済ませユニヴェール学園を出たのが、ほんの一時間前の話。
 本来の目的も果たし、一度自宅に帰るには少し名残惜しい魅力がこの玉阪市にはあった。そこで、これから何度か来ることになるであろう街並みの観光をしようと思い立ち、今に至る。ただ玉阪坂を下り、通りに立ち並ぶ店を見て回るのも楽しいものだが、好奇心赴くままに歩みを進めて迷い込んだ小路は先ほどまで人で賑わっていた玉阪坂とは打って変わり長閑な静けさに包まれていた。人通りのない道に、寂しさを与えないように彩る桜。

(落ち着く)

 さやさやと風が吹き、桜の枝とあたしのワンピースの裾を揺らす。はらり、と目前で花弁が舞った。誘うように、はらり、はらり、と。
 あまりにも美しい誘引に口元が綻ぶ。次の瞬間、赤いパンプスはゆるりと弧を描き、ステップを刻んだ。体が弾む。頭に流すのは、大好きな春の曲。あの曲に出てきた子は、スカートを翻すあたしは、どこまでもあどけなく、愚かで、頼りなげで、可憐な少女だった。
 少女。
 足は止めないまま、一週間後の未来について考える。
 もうすぐ、あたしの頭上を覆う色の髪をした少女がユニヴェールに入学する。その少女に会ったことはないけど、あたしは彼女のことをよく知っている。かつてあたしは、彼女だったから。
 ここは玉阪市。本来、あたしはいない場所。何故ならここは架空の都市で、この世界はゲームなのだから。
 そもそも、初めて校長先生に話しかけられた時に気付くべきだったんだ。とんでもなく理不尽な頼み、それを何気なしに引き受けてしまい、入試に必要なだけの能力を手に入れてしまう、言ってしまえば天才な自分。都合がいいにも程がある、まるで物語の主人公にでもなったみたいじゃないか。夢なんじゃないか、と。

(ま、この作品の主人公はあたしじゃないんだけど)

 くるり、くるり。回る身体と思考回路。
 あの子がハッピーエンドを迎えられるように。みんなが幸せになれるように。もしかしたら原作にないことが起きるかもしれないけど、夢ならばある程度は許されるでしょう。あたしだけの夢なんだから。
 許してよ。

「疲れた」

 何に対してということもない呟きは、春の温い空気に溶けて消えた。
 くぅ、とお腹が鳴る。さっきの通りに、玉阪名物と謳われている大きなお団子みたいなおやつがあったな。甘いいい匂いがしていた。
 あのおやつを買ってから駅に行こう。
 不安を掻き消すように玉阪名物のおやつのことに考えを移し、地に足をつけ歩き出す。
 はらり、はらり、桜が見送る。降る花に紛れる深緋に気付くことはなく、赤い靴の少女は行進する。

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四葩