そんな雰囲気の話 いつものように食事が運ばれてくる。かと、思ったら。見上げると見覚えのない顔。 無言でお辞儀して去っていく背中を見ながら内心首を傾げる。 目の前にあるのは、いつの間にか普段になっていた料理ではなく、以前食べていたような肉の塊とサラダ。 少し焼きすぎではないかと思う肉をナイフで切り、ひとくち。 おいしくない。 下の上に転がる肉を噛みほぐし、やっとの思いで飲み込んだ。 口直しにと口に入れた何かの葉はただ苦いだけで、ドレッシングの味もしなかった。 渋々、皿に盛り付けられた物を胃に押し込み、水を飲む。 どこに行ったのか。 早々と食事を終わらせ、長い廊下を大股で歩いていく。 いつもしつこい位に私の食事に口を出してくる癖に、一体なんのつもりなのか。新手の嫌がらせのつもりなら文句の1つ2つ、ナイフの一刺しくらいはしないと気が済まない。 気味が悪いくらい静かな扉の前に立ち、一応ノックを3回。 静まり返った廊下で、扉の向こうに耳を澄ませる。目を閉じて集中しても中から生き物の気配を感じない。 「おや、」 声のした方を見上げると、白い包帯が目に入る。いつもはためかせているトレードマークのような白衣は無く、黒いシャツ姿のつかちゃんが不思議そうにこちらを見下ろしていた。 手には何かの資料だろうか、紙を数枚纏めたファイルが握られていて、私と同じように彼に用があったのだろう。 「秋夜くんは居ないんですか。はぁ…面倒ですねぇ…お嬢さんも用があるなら、ついでにこれも渡しておいてください。 では、私は忙しいので」 ゆったりと、でも有無を言わせない口調でファイル押し付けられる。 何か言ってやろうと口を開こうとしたが、既に彼は歩き始めていて。ああ、と廊下の角を曲がる寸前に、灰色の瞳がこちらを向いた。 「秋夜くんなら上で寂しそうにしていましたよ」 そう言って、颯爽と去っていく。 数秒、言葉の意味を考える。 知っていたのか。と眉間に力が入るのが分かった。 深いため息を吐きながら、また廊下を歩いていく。上とは屋上にある庭園のことだろう。渡されたファイルを握りしめ、エレベーターのボタンを押した。 扉を開くと、少し冷たい風が頬を撫でる。花の香りが鼻腔をくすぐり、気立っていた気持ちが少し落ち着いたように思う。 誰が手入れをしているのか、綺麗に整えられた庭園の隅にあるベンチに、よく知る背中が見えた。 「いた…」 いつもより小さく見えるその姿に、少し、体が冷えた気がした。 そんな気持ちを振り払うように、持っていたファイルで明るい髪を勢いよく叩きつけた。 「った…、」 「なにしてるの」 燃えるようなもみじ色の間から、水面に映ったような秋が見える。 逆さまに見えた秋が、一瞬歪む。 「ごはん、おいしくなかった」 「、え…あー」 視線が揺らいで、ごめん、と小さく言った千秋ちゃんはまた前を向いて、地面に視線を落とす。 冷たい風に揺られてもみじ色が揺れる。それがなんだか気に食わなくて、今にも消えてしまいそうで、気づいたら腕の中に閉じ込めていた。 「柘榴ちゃん?」 「大丈夫だよ。わたしが一緒におかしくなってあげる」 「──、は…ザクロちゃんもオレも、とっくにおかしいよ」 可笑しそうに笑った顔は、いつもより不器用で情けない。気持ち悪いくらい完璧な笑顔が崩れると普通の笑顔なんだ、なんて、当たり前のことが思い浮かんだ。 「どうしてこんな所にいたの?」 「少し夢見が悪かっただけだよ」 「ふーーーーん…」 ベンチから立ち上がった千秋ちゃんは、いつもの顔で笑みを浮かべていて。やっぱりそれがなんだか気に食わない。 「…そんなに不味かったの?今日のご飯」 「千秋ちゃんのせい」 「んー、じゃあお詫びにデザート作ってあげるから、機嫌をなおして?」 ね?なんてウインクをするもんだから、その顔にファイルを投げつけてやった。ざまあみろー。 ナイフで一刺しはこれでチャラにしてあげよう。 美味しいデザートがあるならね。 |