ゆうやけこやけ

これはよくない。
ゆうやけこやけとどこかで歌う、蝉の声がどこか遠くで聞こえる。
真っ赤に染まった公園で、それと目が合った。合ってしまった。
にこりと笑った女の顔。
焼けるような暑さの中、真っ赤なコートを着込んだ女は綺麗な笑顔でこちらを見ていた。
肺に空気がつまり息苦しい。
ゆらりゆらりと女が手招いた。
行ってはいけない。
水が弾けるような音がした。
女が笑みを深める。
パシャンッ
女のコートが赤く染まる。
何故か足は一歩前に出た。
クスクスと楽しそうに笑う声がする。
また、足は前に出た。

「シャルちゃん、」

肺から空気が飛び出していく。
どこからか水が降ってきた。それが自身の汗だと気づくまで少しの間があったが、それも目の前の空色に奪われた。

「ダメだよ」

額に柔らかい髪が当たる。
大きな瞳が、見えてしまう眼をのぞき込む。それに映った眼の奥で、女が笑って消えていく。
長い睫毛が空を覆い、汗に濡れた手があたたかい何かで包まれる。そこで初めて自身の手が震えていたことに気がついた。

「だいじょうぶ」

空色が見えた。
安心感を覚える笑顔、のはずなのに、何故か背筋が冷える。
以前、友人が言っていた事が少し、分かるような気もした。

「大丈夫だから、いっしょに帰ろう」

頷いて歩き出す。
一歩踏み出した時にはもう、恐怖は薄れていた。


「またね」

公園を出ると、空色が笑った。


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