先生のことを知りたいな

職員室に向かうと、さっきの緑と白いの髪の先生がいた。
…教師はサングラスをしてもいいんだろうか…
しかも、あんなに胸元も開けて…


「ん?どーした編入生。俺に熱烈な視線を向けて。
学生は女の対象外だぞ。
卒業したら考えてやるよ」
*「…」

この人と話すの、すごく疲れる。

*「先生。とりあえず、編入の手続きを…」




授業が終わり、最後の号令が掛かる。
明菊先生は、私の担任でもありながら、
古典の教師でもあったらしい。

ギャップ!!

あの見た目絶対に体育会系だと思ってた…。

あとやたらと、名指しで当てられた気がする…。

そんなこんなで、疲れた午前の授業だった。

「そうだ。
編入生。あとで直ぐに職員室来いよ。
話すことがあるんでな」

…お昼休みも疲れそうだ。
はぁあ…あの先生苦手だよ…


「…あの、明菊先生と何かあったんですか?」

白夢さんが気にかけてくれた。
私は慌てて否定する。

*「う、ううん!気にしないで!
何も無い…はずなんだけどね?」
「そうですか…」
*「とりあえず行ってくるね…」

席から立ち上がろうとした時に、白夢さんが
服の裾を掴んだ。
ちょいちょいと引っ張ってくる。
今どきそんな引き止め方をする女の子が存在したなんて。


*「ど、どうしたの?白夢さん」
「…気をつけて、くださいね」

それはどういう意味だろう。
…もしかして本当にあの先生、倫理的にやばいとか!?
あんな見た目してるし。
憂いている彼女に、どうしてと訪ねようとした。

理由は、直ぐに帰ってきた。




「先生は

「仲間」でハないデすカら」





あの時の白夢さんは、

怖かった。






とにもかくにも、職員室に行かないと始まらない。
ノックをして、明菊先生を呼ぶ。


*「明菊先生。来ましたよー」

「よーしよし、先生フラれなくて安心したぞ」
*「誤解を招く言い方やめてください」
「そーんじゃ、別室行きますかっと」

と、先生はパソコンを持って、立ち上がる。

*「え?こ、ここじゃないんですか!?」
「色々個人情報もあるもんでな。職員室で話すのもどうかと思ったんだ。
…ま、俺以外に教師は居ないんだが…」

…そういえば。
明菊先生以外の教師が、どこにも見当たらない。
机や椅子はあるのに。
どうして…?

「お前は気にしなくていいんだ。ほら、ついてこい」
*「あ、は、はい…」

教師と言えども、
こんな教育者の欠けらも無い格好の人と、
個室で二人きり…なんだよね。

まあ、いいけれど…



案内された場所は、物置のような小さな部屋だった。
2人で向き合って座って、何とかスペースがあるくらい。
…狭くない?

*「もっと広いところなかったんですか?」
「あるにはあるが…

ここぐらいなんだよ。
監視が薄いの」

ガチャン、と、内鍵を閉める音が聞こえる。

…え、ええ?

「こーれで邪魔するものはいないな…」
*「あ、あ、あの!な、な、…今から…何する気なんですか…?」
「心配するな。別に育ち盛りの女子生徒を食う趣味なんかないからな」

と言われても!!黙って鍵をかけられてらいやでも不安になるよ!!

「今の学生は、とにかく清く正しく育つべきってのが、教師としての俺の理念なんでね」
*「そ、そうですか…」
「俺は豊満な方が好みだしな。
スレンダーもいいが…
そもそもガキの体には興味無い」
*「……」

イラッとした。正直。
馬鹿にされている半分。
本当にこんなのが教師でいいのかというのが半分。

「…ま、冗談はさておき、だ。


…単刀直入に言うぞ。

「アイツら」を、
この学校を受け入れるな」

*「…っ…
…う、け…入れるな?」

「お前が接したクラスメイト。
全員「人間」とは思うな。
…こんなこと、突然言われても、納得はいかないだろうが…。
時間が無いんだ 」


さっきの軽々しいトーンではなく、
重く鈍い声だった。

「ここなら「生徒会長」の干渉も少ない。
教師しか使っていない物置部屋だったからな。

アイツが直ぐに察知できるのは、自分が知っている場所だけなんだろう。

逆に言えば、この空間はすごく不安定で、俺たちまとめて消える可能性もあるけどなっと」

めちゃくちゃなことを喋りながら、先生はパソコンと向き合っている。

…何の話?ゲームの話?


*「…何を言ってるのか、わからないです…」
「…じゃあ、これはどうだ?
お前、ここに来るまでのこと、覚えてるか?」

ここに来るまでのこと?
通学してきた時の…こと…?
たしか…

…あ、あれ?

*「私…校門を通る前のこと…何も…覚えて…
なんで…っ?」

ひとつため息をついて、先生は語る。

「それでいい。そう思うことが正しいんだ。
…今は、それが正解と思って、
話を聞いておけ」
*「…は、はい…」

「…まずこれを見ろ」

言われるがままに、パソコンの画面を覗き込む。

*「…これは…学校の歴史?」
「正しくは、
「新聞に乗ってしまったこの学校の歴史」だ。
…もちろん悪い意味でな」
*「…」

編入生の私に、なんでこんなものをわざわざ見せるんだろう。
とにかく目を通してみる。

ー苧環(オダマキ)高校。
女子生徒自殺事件

某日、苧環高校にて、同クラスからいじめを受けていた、
女子生徒が自宅にて死亡ー

*「…」
「…。

…10年前、あるクラスでな、
結構ないじめが起きたんだ」

サングラスの奥の瞳は見えない。
どういう気持ちなのか、読み取れない。

「そして、女子生徒は耐えきれず、自宅にて自殺。
これが表に出ている事件。
…だが、この事件には続きがある」

先生が、画面を下へスクロールしていく。
すると、新しいタイトルがでてきた。

*「…「犯人探し」…?」
「女子生徒が死亡して、いじめが明らかとなった時だ。
「首謀者」を探すことになったらしい。
いじめていたことに変わりはないのに、
「初めに始めたやつ」を、炙り出そうとしたんだよ。

…まさに、善意に隠れた悪意だ」

*「…」

「実際にな、いじめを行った数人は、その行いによって…明るみに出たんだ。
でも、犯人が見つかっていくと同時に、
クラスの疑心暗鬼が深まっていく。

それはいずれ、学級崩壊を起こした」

画面には、
こう書かれていた。


ー苧環高校。

数々の問題により、廃校。

校舎は取り壊され、
その場所に、新しい高校を設立する計画があるー


*「…は…い、こう?」

「苧環高校は、10年前に廃校になった。
校舎も既に取り壊されて、新しい高校が設立された」

混乱する私を他所に、
先生は淡々と言葉を続けた。

「分かったろ。この学校の正体。

ここは、「10年前に取り壊されたはずの廃校」だ」

理解が追いつかない。
私が接した生徒たちは?
優しくしてくれた委員長は?
今、私が話している、貴方は
一体何者なの?

*「…わか、りません…
なんて、言えばいいのかも…」

「…まあ、そうだよな。
こんなもの、いきなりぶっ込まれて、理解しろって言う方がおかしいんだ」

パタンとパソコンを閉じたあと

先生は、サングラスを外した。

ガラスの奥の目は、「悲哀」だった。
出会った時の、ふざけた態度なんて欠けらも無い。
何かをずっと、後悔し続けているかのような。

「この場所は…地獄、なんだ」
*「…地獄…?」

「「辛い」って言う意味じゃない。

死んだ後に、罪を償うための場所。

そういう意味で、俺は呼んでる」

*「…」

「救えなかった、1人の女子生徒。
守れなかった、クラスメイト。
…気がついてやれなかった、
あいつの、学校への思い。

きっとこれは、
俺が償うべき罪なんだ」


キーンコーンカーンコーン…
午後の授業5分前の合図が鳴る。
先生は、伸びをして立ち上がる。

「…さ、これでお前も、
「ここにいるべきじゃない」ってのが分かったろ。
学校の正体され分かれば大丈夫だ。

お前には、「帰るべき場所がある」と強く思えばいい。
無くした記憶も、すぐに思い出すさ」
*「…」
「午後の授業は免除してやるよ。
一日だけだが、楽しかったぞ」

パソコンを持ち、先生は戸の鍵を開ける。
思わず叫んでしまった。

*「先生は!…ずっと、ここに、いたんですか…?」

「…」

*「帰ろうと、思わないんですか?」

「…」

*「あなたは、どうして…」


「気にすることじゃない。
気にしなくていい。

俺は、出来なかったことを、あいつらにしてやりたくて、
この道を選んだんだ。

そもそも、「出会うはずがない出会い」なんだ。
…さっさと忘れるこった」

「お前にとっては、
こんなの、

悪夢でしかないんだよ」
「いや、むしろ、
今なら、

悪夢で済むんだよ」

こちらに顔を向けることなく、先生は部屋を出ていってしまった。
1人になった部屋で、呆然とする。

*「…」

先生の言っていることが正しいのなら、
私は、「おかしい場所」にいるんだろう。

…そう、私は…戻るべき…所が…





「…ねえ……知ってる?」

「…うちの、学校の、噂」



*「…っ!」

なんだろう。今の記憶は。
これは…とても、大切な気がする。

思い出せ。思い出せ。思い出して…!





「夜になるとね…旧校舎が出てくるの」

「えー、うそだぁ」

「何人も行方不明になってるって…」

「じゃあさじゃあさ…」





*「…っ!そうだ…私…

噂を、確かめたくて…!
みんなで…!」




「みんなで、
夜の学校に入ってみようよ」




*「…っ」


そうだ。
私は、新しく設立された、高校に通ってた。
そこの、生徒だ。

この場所じゃ、ない…!!

*「っ!
他の子達はどうなったの!?」

そういえば、朝から見当たらなかった気がする。
はぐれてしまった…。

*「…」

…先生…は。
このまま、ここに、いるんだろうか。
先生の口ぶりからするに、
私は、ちゃんと、元の世界へ帰れるんだろう。

でも…
*「先生だって、帰る場所があるんじゃ…」

…。

ー俺は、出来なかったことを、あいつらにしてやりたくて、
この道を選んだんだー

ー先生は、仲間じゃないですからー

…。

先生は、信頼されていなくても、
ずっとひとりで、教師を続けていたんだろうか。

これからも、ずっと。

私が、出ていってしまえば、

もう、「人」としての味方は…

*「…」

私は、静かに部屋を出た。




誰もいない廊下を
コツコツと歩く。

今は午後の授業中だから、みんな教室にいる。

*「…」

その足は、出口にたどり着いた。
ゆっくりと扉を開けてみる。

外は、グラウンドが広がり、校門は開いていた。

*(…自分の帰る場所を、強く思う)

自然と手に力が篭もる。
先生がくれた、この学校を出る鍵。
道しるべ。

きっと、先生は、授業をすることによって、
みんなの気を逸らしているのかも…しれない。

出来ることなら、一緒に脱出したかったけれど、
…先生の、目が

「連れていかないでくれ」

と、言っているようで。

言い出せなかった。

*(…)

とにかく、私が、脱出すれば、
他に方法があるかもしれない。

先生を助けて、この歪んだ空間を終わらせる方法が。

どんな方法でもいい、
脱出した「私」と言う存在が、
助ける手がかりになるかもしれない。

ここで終わってしまえば、先生が繋いでくれたことも、全部無駄になってしまう。

悔しいけど、私ができることは、
私が無事に、ここから逃げ出すこと…。

*「…よし」

足を、1歩、外に出す。




「いーけないんだ。サボりは良くないぞ」




真後ろから声がした。
そこには、「この学校」の生徒会長である、
ニノ灯桔梗がいた。
…背後を取られてしまった。

*「…っ!」
「ありり?冷たい顔!
俺なんかしちゃった?」

…この人も、人ではないんだろうか。
でも、他の生徒とは、違う雰囲気を感じる。
先生とも、違う。

もっと、別のもの。

*「…あなたは、一体、何なんですか」
「誰ってー?さっき言ったじゃん!ニノ灯桔梗だって!」


*「…人間…なんですか?
それとも、

他の生徒たちと、一緒なんですか…」


ピタリと、ニノ灯桔梗の動きが止まった。
表情は、水を引くように消えた。
冷たささえ感じる、無の顔。

「…ここに来たってことは、まさかと思ったけど…。
まあ、そういうこともあるよね」

はぁ…とため息をついて、呆れ顔をする。

「俺は「生徒会長」なんだよ。
ずっと。

そうなりたいと思ったから。

…くだらない問題ごときで、
俺が待ち望んだ学校を、潰されたくなかった」

*「…」

「んで、どーすんの。
出るの?出ないの?」

興味が無さそうに尋ねてくる。
…わざわざ聞く必要があるのかな。

*「そ、それは、帰るに決まってます…。
私は、待ってる人も、帰るべき場所も、ありますから…!」

その返答を聞いた途端、

ニノ灯桔梗は、

凄く、寂しそうな笑顔をした。


「…そっか」

くるりと体を前へと向かされて、
ポンっと背中を押される。

体は完全に、校舎の「外」へと出ていた。

「君の勝ちだよ。
元いた場所におかえり」

その言葉を最後に、
入口の扉は、ゆっくりと、閉まっていく。





1歩、1歩、校門へと進む。
戻るべき場所を思いながら。
帰るべき所を描きながら。

そうして、門の外へと足を出す。

そうだ、今思えば、
この空間は、「夢」なのかもしれない。

幻想を見せて、人を惑わす

とても深い、青春の夢。






「…では、続いてのニュースです。
第2苧環高校の、女子生徒4名が、昨晩から行方不明となっている事件です。
この高校では、行方不明事件が多発しており、警察も、危機感を強めています」

「そして、1人の女子生徒が、朝方に
第2苧環高校の校門前にて、
倒れているのが発見されました。
女子生徒は、行方不明になった4人と接点があり、何か事情を知っているのではないかと、聞き込みを続けています」

「しかし、女子生徒は記憶が混乱しており、
昨晩の出来事を一切覚えていない状態です。
「気がついたら倒れていた。どうやってここに来たか覚えていない」
と、証言しているとのことです」

「謎の多く残る、生徒行方不明事件。

解決する日は、来るのでしょうか」


-6-

prev / next


ALICE+