新聞部を訪問する

職員室で手続きを済ませたあと、教室へ行く。
始まった授業は、とりあえずついていけそうで。

*「そうだ…新聞部!
椿呉羽さんって人がいるんだっけ…
お昼だから居ないかもだけど、どんな所かだけは見ておこうかな」




新聞部の部室は、私のクラスの一個上の階にあった。
端っこにある1教室。さほど広くはない。
何かの準備室…だったのだろうか。

…あれ?少しだけ、物音…がする。

*「もしかして…誰かいるのかな?」

お昼休みで活動するなんて、すごく熱心な部活なんだなぁ…
とりあえず、ノックをして挨拶しよう。

*「すみませーん。ここは新聞部で…」
「ひいいいぁぁあっっ!?」

どんがらがっしゃん。

そんな漫画のような音が聞こえた。
思わず戸を開けて、中の様子を伺う。

*「ちょ…大丈夫ですか!?怪我は…」
「ううぅ…っびっくりした…。
だ、大丈夫…です…」

そこには、ダンボールにおしりがすっぽりとハマり、
数冊の本の下敷きになっている男子生徒がいた。
その大きな目は涙で濡れていて
どう見ても大丈夫には見えないんだけど…

「ごめんなさい…その、び、ビックリしたら…椅子から落ちちゃって…っん…。んん…
…う、動けない…」
*「…あの…手、どうぞ」
「あ。ありがとう…ございます…」

おずおずと手を取ってくれた。
さっきも思ったけど、
やっぱり女の子みたいな態度だなぁ。

そのまま引き起こす。
どうやら怪我はないみたいで良かった。

*「突然驚かせてごめんなさい…」
「あ、い、いいえ!オ、オレが勝手に驚いただけであなたは全然悪くないです!

あ、えっと、その…
し、し…
新聞部へみょうこそ!」

*「…」
「…あぅぁ…」

思いっきり噛んでいた。
自分でも気がついたのか、
小さく震えて、りんごみたいに赤くなっていた。

*「だ、大丈夫ですか…?」
「だい、大丈夫!
えっと…新聞部、見に来てくれたんだね…。
ありがとう!凄く嬉しい」

へにゃへにゃになったかと思えば、
可愛い笑顔でお礼を言ってくれる。

…本当に男の人だよね?



「よく漫画やアニメとかである新聞部を思ってもらったら、大体あってるよ。
学校ついて、月一くらいで新聞を出すんだ」
*「新聞部って本当にあるんですね…
正直、フィクションの中だけだと思ってました」
「確かにね…。大体こういうのって、生徒会が出すイメージの方が強いんじゃないかな。

でもね、オレがある時、きょーくんにね、
「この学校についての新聞が書きたい」って言ったんだよ。
そしたらきょーくんが、本当に新聞部を作ってくれて、部室まで用意してくれたんだ」
*「へえー…行動力半端ないですね…」

きょーくん…ていうのは、多分桔梗さんの事だよね。
ヘラヘラしてそうに見えて、生徒のこと思ってるんだなぁ…。

*「この棚にあるのが、新聞ですか?」
「あ、その場所はね、新聞を書くための資料だよ。
学校の歴史や、生徒会長へのインタビューとか…結構レアな情報も沢山あるんだよ」
*「これ、呉羽さん1人で集めたんですか!?」
「ま、まさか!きょーくんに手伝ってもらったんだよ…。オレ1人じゃ、ここまで出来なかったよ」

それでも、呉羽さんもすごいと思うけどなぁ…

*「あの…ちょっとだけ、この資料、見てもいいですか?」
「もちろん!ちょっとと言わず、気が済むまで見ていいよ!」

お言葉に甘えて、目に付いた資料を数冊取ってみた。



*「…へえー。やっぱり歴史ある学校なんですね!」
「そうだね。こんな昔に設立されたなんて、知らなかったよ。
100年くらいの歴史はあるみたいだよ」

*「凄いなぁ…。
あ、校長は三年ごとに変わってるんですね!」
「定期的に変わるのは大変だろうけどね…」

*「…あれ?」

歴代校長一覧と、学校の歴史を
照らし合わせてみると
…違和感に、気がついた。

*「呉羽さん、この資料…」
「ど、どうしたの?なにかおかしかった?」


*「なんで10年前で止まってるんですか?」


そうだ。こんなに綺麗にファイリングしてるのに、
最近のことは一切書かれていない。
10年前から。

校長も、歴史も、何もかも進んでない。

100年…とは言わずとも、それくらい前から
形に残そうとしてるのは伝わってきたのに。

「…」

呉羽さんは答えない。
…まあ、私は来たばかりの編入生だし…
突っかかるのは良くないかな。

*「…ご、ごめんなさい。変な事聞いちゃいましたよね…」

「…ううん。


きょーくんが、気にしてるっていう気持ちも、
わかるなぁ」


*「…え?」

「なんでもないよ。
…でも、そうだね。

「生徒会長名簿」を見れば、
ひょっとしたら…分かるんじゃないかな?」

生徒会長一覧?
呉羽さんが指さす方向を見てみると、
1冊の黒いファイル。

タイトルは、そのまま、「生徒会長名簿」。

言われるがままに、そのファイルを取り、開いてみる。

名前の通りに、歴代の生徒会長が、まとめられていた。
…これも、始まりは、学校が設立された日から
しっかり記録されている。

のに、
やっぱり10年前で止まってる。

*「…っいや…ちょっとまって…っ!?」

10年前で止まってるページを見てみる。
そこに載ってるのは…。
絶対にありえない人。
日付は10年前。
でも、この姿は…


*「記録がとだえた10年前…。
その時、生徒会長だったのは…

桔梗…さん?」




「ごめいとーう!」

突然引き戸が勢いよく開く。
そこには、「10年前の生徒会長」
ニノ灯桔梗が立っていた。

私が見ている真実が正しければ、
今、ニノ灯桔梗はしっかりと「現生徒会長」として、存在している。

「わぁぁっ!?きょーくん!いきなり開けないで!」
「めんご☆
でも、こんなか弱い少女が真相にたどり着こうとしてんだよー?
応援してあげないと!」

どういうこと?
顔が似ているとか?
そんな偶然ある?
でも、そうでもしないと説明がつかない。
なんで私は、10年前の生徒会長と対峙しているの?

「んー、あと一歩って所かな?
頑張れ頑張れ♡散っていった他の子達のためにも、君が真実にたどり着くんだよ!」
「え!?そ、そんなに応援していいの…?」

*「…あ、あなた、は、本当に…ニノ灯…桔梗、なんですか…?
10年前…の、生徒…会長…」

「そっうでーす!今で言うなら?10年前になんのか。
その時の生徒会長は俺でーす!

ま、正しくは、「今でも」生徒会長なんだけどねー」
*「…っっ」

こんなのドッキリだ。イタズラだ。夢だ。
非科学的だし、非現実的過ぎる。
なのに、

感触も、恐怖も、動揺も、
全て現実だと知らしめてくる。

*「なんで…?なん…で…?」

「うーん。人間ってとんでもない事が起きると、頭がバグっちゃうんだねぇ。
まあ俺も人間みたいなもんだけど」

現実を受け入れたくなくて、
隣の男子高校生に、叫ぶ。

*「呉羽さん!!ドッキリですよね…?
はは…編入生の…歓迎みたいな…感じ…ですよね…?
もう、大丈夫ですよ…?
だから…」





呉羽さんは、ニコリと笑う。




「ふへへっ。

頭が混乱したまま、仲間になっていくのも、
悪くないんじゃないかな」



*「……あ」



ガチャりと、鍵が閉まる音がした。







今日もオレは、生徒会室へと向かう。
そこには、
オレが敬愛して止まない人がいる。

古びたドアを開くと、
生徒会長の椅子に、青い髪のいつもの人。


「やっほー呉羽っ。今日もいい天気だねー」

ふふ、天気なんていつも変わらないのに。

「そうだね。きょーくんも元気で何よりだよ
でも、今日は一段と機嫌がいいね」

そう。「仲間」が増えた時は、いつもより楽しそうだ。

「ねえねえ、昨日来た編入生は、明菊先生のクラスに入ったんだよね?
そろそろ生徒でいっぱいにならない?」
「そーなんだよなぁー…だから、

生徒だけじゃなくて、大人も「仲間」になってくれたら楽なんだけどなー」

きょーくんは、責任感のある人だ。
仲間になった生徒は絶対に捨てない。

清く正しく、楽しく明るい学校の仲間として、
永遠に、導いていく。

それが、彼に課されたもの。

いや、
彼自身が、望んだもの。

「呉羽。まだ記録は続けてんの?」
「うん!仲間になった子達の基本的なことは、ちゃんと残してるよ」
「さーんきゅっ。
ま、一応ねー。記念として残しときたいしね!」

オレは知ってる。
こうやって記録に残すのも、
その事のことを、ちゃんと覚えておきたいから。

きょーくんは、全生徒の名前や生年月日を覚えてる。
この学校にいる分、外の情報は入ってこないから

その分、きょーくんは、
楽しめるように、喜んで貰えるように
今日も生徒会長を務めるんだ。

「きょーくんは、良い人なのか悪い人なのか、分からないよ」

なんて皮肉混じりにいえば、
彼は大きく笑った。





「あははは!俺はただの生徒会長だよ!

ちょーっと、生前に、

無念があっただけの♡」





オレはそんな場所だから、自らここにいることを願ったんだ。
今オレは幸せだよ。

誰かが不幸になっていても
誰かが絶望していても
誰かが泣きながらここに来たとしても

オレにとっては、ここは、最高の場所なんだ。







「ほんっとーに、呉羽は飽きないやつだよ。

外見も中身も可愛いくて、従順で面白い。

あいつだけは、精神を染める必要なかったもん。

生きてた世界に相当絶望していたか、
元から狂っていたかの
どっちかだよねぇ」

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