個性把握テスト2
「 個性≠消した。
つくづくあの入試は…合理性に欠くよ。おまえのような奴も入学出来てしまう。」
髪を逆立てて怖い顔で言う相澤先生。緑谷くんは先生の首にかけているゴーグルを見てハッとした様子で、相澤先生のヒーロー名を口にした。視ただけで人の 個性≠抹消する 個性
抹消ヒーロー、イレイザー・ヘッド
…残念ながら、全く知らないヒーローだ。それは私だけではないようで、知らないだとか、名前だけ見たことがあるという声が聞こえてきた。
話は聞こえてこないが、見る限り指導を受けていたようで。
ブツブツと何かつぶやきながら再び準備している。
さっきまでとは違う表情で、改めて大きく振りかぶってボールを投げた記録は、705.3m。
『やっと、ね…』
指が腫れ上がっているが大丈夫だろうか。知らず知らずの内にこちらが緊張してしまっていたみたいだ。ほっと息をつくと∞という記録を出した女の子がこちらを見ていた。
「あなたもあの人の…えと、緑谷くんのこと心配やったん?」
『…えぇ、まぁ。知り合って間もないとはいえ、自己紹介もしてよろしくと言い合ったクラスメイトの除籍の危機だからね。心配にもなるわ。』
「やっぱ、そうだよね…。除籍なんて嫌やし…私は、入試の時緑谷くんに救けてもらったから。せっかく同じクラスになれたのにお別れなんて嫌やから。
あ、自己紹介まだやったよね。私麗日お茶子です。こんな時にあれやけど、よろしく。」
『鞍馬海咲です。苗字は慣れないから、出来れば名前で呼んでほしいわ。こちらこそよろしく。』
「ならこっちも名前で呼んで!」
2人で自己紹介をしていた時、何やら爆豪くんが吠えていたようだがそれも相澤先生の 個性≠ノよって抑えられていた。ドライアイだなんて、なんて勿体ないの…。
「時間がもったいない。次準備しろ。」
「次、海咲ちゃんやんな!頑張って!」
『ありがとう、お茶子ちゃん。全力で参ります。』
相澤先生からボールを受け取り、円の中に入る。連装砲や機銃では最大値は出せないだろう。
……それならば。
『航空母艦伊吹、出撃します!』
ぶわり、大きな風がひとつ吹く。発した言葉と同時に現れたのは空母装備―――片腕には飛行甲板、背には矢筒と矢が数本、そして手には弓。
突如現れたそれらに、驚く声が聞こえた。
矢筒から矢を1本…彩雲を取り出す。ボールを括り付けて、弓を構えた。
『お願いね!』
放った瞬間、弓の先から風音を立てて航空機になる。
見えなくなるほど遠くまで飛んでから、どうしようかと相澤先生に向き直る。
『あの…地面に着くまでとなるとかなり時間がかかると思うのですが…どうしましょう。』
「……あれの航続距離なんかは分かっているのか。」
『えぇ、おおよそでしたら…あの子たちですと、5300キロ程は飛びますね。
航空機の航続距離は一応把握していますから、戻ってこさせることもできますが…』
「…後がつかえてる。時間も限られているから戻ってこさせることが出来るならそうしてくれ。」
そう言われ、円の外に出て次の人が準備できるようにする。
そうするとすぐにクラスメイトたちに囲まれてしまった。
興味津々、といった様子をひとつも隠さず見られるものだから、何を聞かれるのだろうと少し怖くなった。
「海咲ちゃんの個性、水だけやなかったん?!めっちゃかっこいいなぁ…!!」
「入試の時とはまた違うやつだよなアレ!」
『個性は2つあるの。入試の時のと今のは同じものよ。装備が違うだけ。
ちょっと艦載機の皆さんを戻さなきゃいけないから、ごめんね。』
ゆっくり目を閉じてリンクさせると、彩雲の見ている景色が見えた。少し遠くまで飛んでいる。折角飛んでもらったが、戻って来てもらうために暗号電文を送った。するとすぐにUターンしてこちらに戻ってきているのがわかった。もうすぐ戻ってきてくれるだろう。
「あ、さっきの飛行機!戻って来たんだ!」
『優秀な子でしょう?』
つい、得意げになってしまった。褒められるのは嬉しいことなのだ、仕方ない。
飛行甲板を構えてそこに着陸させる。彩雲を矢に戻して、括りつけていたボールを外した。
『お疲れ様。先生、お待たせ致しました。』
先生にボールを渡してから『作戦完了』といい、艤装を外した。その姿をじっと睨むように見ている人物がいたことには気付かなかった。
そして全種目が終わり、結果発表。
「んじゃ、パパッと結果発表。
トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する。
ちなみに除籍はウソな」
そう言いながら手元の機械で結果を表示させる。
私の順位は7位……上々ね。最下位は緑谷くんだった。
お茶子ちゃんも緑谷くんも、目を丸くしてぽかんとしていた。
「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」
「はーーーーーー!!!!??」
「あんなのウソに決まってるじゃない…ちょっと考えればわかりますわ…。」
ニヤリと嫌な笑みを浮かべて言う相澤先生の言葉に叫ぶ声。
ポニーテールの女の子はあきれたように言っていたが……。
そんな中静かに成り行きを見ていた私に、お茶子ちゃんが話しかけてきた。
「海咲ちゃんもウソって分かっとったん?!」
『え?いや、ウソだと聞いてこれでもびっくりしているのだけど…。』
「ウソやん!!」
だって、あれは本当に除籍にするつもりだっただろう……見込みが、なければ。
ぽん、と背中を軽く叩いて更衣室に行こうと促す。緑谷くんは保健室に向かうようだった。
着替えてから教室に戻り、帰る準備をしているとお茶子ちゃんが「一緒に帰らん?」と声をかけてきてくれた。聞いてみるとどうやら最寄りの駅が同じようなので、途中まで一緒に帰ることに。
こんなふうに友達と一緒に帰る事なんてあまりなかったから、何だか不思議な感じだ。全く友達と呼べる人間が居なかったという訳では無いが、思えばあまり遊んだり帰路を共にすることなんてなかったような気がする。
校舎を出て歩いていると、前に緑谷くんと飯田君の背が見えた。声かけてみよっかというお茶子ちゃんの言葉に頷く。
「おーい!お二人さーん!駅まで?待ってー!」
『私達も駅まで一緒にいいかしら。』
「君たちは、∞女子と、飛行機女子!」
『ひこうきじょし…。』
何だか新しい呼び方をされてしまった…。航空機飛ばすだけが個性じゃないんだけどなぁ。
とにかく名乗らなければ知ってはもらえない。ずっと飛行機女子と呼ばれるのは嫌だ。
「麗日お茶子です!」
『私は、鞍馬海咲です。苗字は慣れないから下の名前で呼んで。』
「えっと飯田天哉くんに、緑谷…デクくん!だよね!!」
「デク!!?」
簡単に自己紹介を済ませてから、自信ありげにお茶子ちゃんがそう言う。しかし多分それはあだ名だろう。
「え?だってテストの時、爆豪って人が「デクてめェー!!」って。」と人差し指を立てて言うお茶子ちゃんに、緑谷くんは手をせかせかと動かしながら頬をほんのり染めて話し出す。やはり彼は照れ屋なのだろう。
「あの…本名は出久で…デクはかっちゃんがバカにして…」
「蔑称か。」
「えーーーそうなんだ!!ごめん!!」
あだ名ではなくバカにしてそう呼ばれていたということにも驚いたが、あの凶暴そうな爆豪くんをかっちゃんと呼んでいる緑谷くんにも驚いた。よくその呼び方を許しているな、爆豪くん…今度呼んでみよう。絶対怒られる。
するとぐっと拳を握りしめたお茶子ちゃんがにこっと愛らしい笑顔を浮かべて。
「でも「デク」って…「頑張れ!!」って感じで、なんか好きだ、私!」
「デクです」
「緑谷くん!!浅いぞ!!蔑称なんだろ!?」
「コペルニクス的転回…。」
どのへんが頑張れって感じなのか分からない…。顔を両手で覆い、震えながらそう言う緑谷くんに、少し笑ってしまった。単純だ、この子。
『じゃあ、私も緑谷くんのこと「デクくん」って呼ばせてもらおうかしら。』
「ハッハイッ!!」
『何で敬語なの?私のことも、良ければ下の名前で呼んでね。飯田くんも。』
「ッ海咲…さんッ?!」
「ああ!よろしく、海咲くん!」
『ええ。改めてよろしくね。』
飯田くんの大きな手と握手する。デクくんはまだ緊張気味に、飯田くんははきはきと呼んでくれた。
艦娘≠ニいうのが強く残っているからなのか、鞍馬と呼ばれるとどうにも自分ではない気がしてしまう。同艦型で、作られる予定だった姉妹艦のあの子のような…。
そこまで考えて、思考するのをやめる。せっかくできた友達との下校の時間だ。
お話して、帰ったら補給をしっかりしないと。
明日からが本番だ。どんな訓練を受けれるのか。考えるだけでわくわくしてしまった。
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よい子の箱庭