ノンストップ青春!




一時間目の授業が終わり、すぐ廊下に出る。向かうは二年A組の教室。走らないように急ぐのは難しい。授業の合間の休憩時間は短い。ぐずぐずしているとあっという間に終わってしまう。走っているところを副会長に見つかって、捕まって説教を食らっては本末転倒。四字熟語なんか使っちゃって、今の俺ちょっと賢いかも。

きっと競歩ってこんなかんじなんだろうと思いつつ目的地に到着。少しだけ上がった呼吸を整えて、いざ室内へ突入する。


「押忍!あんずの姉御!」


教室内でご友人と談笑していた姉御。俺に気付くと一旦手と話を止めてくれる。姉御は本当にいい人だ。


「はい。大将から預りものっス」

「うん。ありがとう」

「これくらい、どうってことないっス」


今お渡ししたのは衣装の型紙。不備がないことを確認してもらい、無事に任務完了。そして…姉御のすぐ隣の人物へ視線を移動させる。たまたまこちらを見ていてくれたのか、ぱちりと目が合う。このときだけは俺ひとりに向けられる、ひときわ眩しい笑顔。


「おはよう。南雲くん」

「おおおおおはようございます歌歩さん!」


顔が一瞬で熱くなる。心臓も熱くなる。ああ、今日もスマートに挨拶できなかった。もっと格好よくいたいのに。こんな噛みまくりのダサい俺の姿を見ても、優しく笑って迎えてくれる。


「毎日お疲れ様」

「だ、だだだ大丈夫っス!これくらい、朝飯前っスよ!」

「そっか。偉いね。あんずちゃんもいつも褒めてるよ」

「それは、有り難いっスね…!」


姉御が褒めてくれるのはもちろん嬉しいけど、歌歩さんに偉いと言われるともっと嬉しい。自分の単純さに驚きを通り越して感心する。


「歌歩さん、今日は、どこのユニットのレッスンが?」

「今日はtrickstarだよ。あんずちゃんも一緒なの」

「そうなんスね!が、がんばってください!」

「うん。ありがとう」


俺には直接関係ないことでも、こうして尋ねると嫌な顔しないで教えてくれる。付き合ってもいないのに予定を尋ねるとか、女々しいというよりちょっと気持ち悪いなと自分でも思う。自覚はある。でも知りたいのも事実だから差し支えない範囲でいつも教えてもらう。鬱陶しがられたらその瞬間からやめるけど。

そのあとも世間話するけど、あまり長居すると邪魔になりそうだし特に自分の心臓にも悪いので、程々にして二年A組の教室を出る。浮かれた気分のまま早足で自分の教室へ戻り、いつも話を聞いてくれる友人のもとへ一直線。


「翠くん翠くんみーどりくーん!」

「ん、聞こえてるよ…」


気だるげにしているけど、俺の話をいつも全部聞いてくれる。今はここに居ないけど、仙石くんも必ず聞いてくれる。ふたりとも優しい。いい友達で、仲間だ。


「聞いて翠くん!今日は歌歩さんに褒められちゃったっス!毎日偉いねって!」

「まあ…これだけ毎日用事つくって行ってるし。熱心には思われるかもね」

「褒めて貰えるならなんでもするっス!」

「ついでに頭撫でて貰ったら?」

「ファッ!!!??!??」


俺の反応を見て、翠くんが小さく吹き出した。翠くんの笑顔は貴重だ。…男の俺から見ても翠くんは格好いい。翠くんほどの顔面レベルとタッパがあれば、年下でも堂々と歌歩さんにアタックできたのだろうか。…わかってる、無いものねだりだと。


「あんずさんに撫でられるのは平気なのにね」

「姉御はそれこそお姉さんみたいな感じっスからね。向こうも弟みたいって言ってくれたことあるし」

「その感じで歌歩さんにも…」

「無理無理無理無理無理無理ぜっっっっっっったい無理!!!!」

「……そう」


そんな、あの歌歩さんから頭撫でてもらうとか、どうしよう考えただけで死ねる。そんなことされたら絶対爆発する。耐えられない。……でも、してほしくない訳では、決してない。きっと、あったかい手、してるんだろうなあ………


「もし万が一そんなことあったら、そのときは俺の命日なんで弔ってほしいっス」

「えええ……俺たちを置いて死なないで。仙石くんと俺で、あの先輩相手にするのは無理…」

「俺も無理……歌歩さんに撫でてもらえたらそれこそ昇天しちゃうっス…」

「…嫌ではないんだ?」

「そりゃあ…まあ、それは、もちろん」

「ほんと、好きだよね」

「うん。めっちゃ好きっス」

「休み時間、ちょっとしかないのに。よく行くよ」

「ちょっとでも逢えればいいんスよ!はあぁ〜……今日も可愛かったっス…」


先程の歌歩さんの眩しい笑顔を思い出す。年上に可愛いって表現は失礼だと思う。でも実際可愛いのだから仕方ない。いや、姉御が可愛くないってわけじゃない。姉御も優しいし笑顔が素敵だし、可愛らしい、本当にいいひとだと思う。でも、好きなのは歌歩さん。そこに理由なんてない。


「毎日飽きないね」

「当たり前っスよ!翠くんだって、毎日同じゆるキャラ見たって飽きないでしょ?」

「…正論だけど、ゆるキャラと比較しちゃうの?」

「ものの例えっス。…でも例えにしても、あんまりよくなかったかな。女の子とキャラクター比べるのは」

「そこまで真面目に考えなくても…」

「俺はいつでも真面目っスよ!……あ、予鈴っスね。翠くん、いつも聞いてくれて感謝っス」

「ん。いいよ」


翠くんにお礼を述べて、自分の席に戻る。歌歩さんは、次はなんの授業かな。二年生なら俺より難しい授業受けてるに違いない。歌歩さん、真面目だし成績もきっといいんだろうな。今日はtrickstarのレッスンか…近いうちに、また流星隊のレッスン見てくれないかな。隊長、段取りつけてくれないかな。それとなく、言ってみようかな。

…授業が始まってからも、つい歌歩さんのことばかり考えてしまう。目は黒板を見ているし、手はちゃんとノートを取っている。でも頭の中は歌歩さんのことでいっぱい。ただでさえ馬鹿なんだから、ちゃんと授業聞かなきゃいけないのに。わかっていても無理なものは無理。今日はまた、なんて言い訳すれば逢いに行っても怪しまれないだろうか。


流星ブラック南雲鉄虎、只今絶賛片想い中です。



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