かわいいだけじゃ物足りない





天気がいい昼下がり。俺たちは佐賀美先生のゆったりした授業を受けている傍ら、外ではあったかい日差しの下で二年生が体育をしてる。見る限りドッジボールっぽい。盛り上がりやすいもんなー、道理で騒がしいわけだ。特にtrickstarの方々はうちの隊長に負けず劣らず賑やかだと思う。その影響か、めっちゃ楽しそうに見える。

trickstarのひとたちの近くには姉御の姿も見える。ってことは……歌歩さん、居るかな。そりゃあ居るのは居るよな。恐らくサボったりするようなひとじゃない。trickstarの面々とあんずの姉御はわかったのに、歌歩さんの姿が見えない。ちょっと席を外しているだけだろうとは思う。しかし…このままじゃ歌歩さんを見つけるまでガン見しそう。それはさすがにまずいと思って、黒板に視線を戻す。

暫く浮わついた気持ちを抑えながらノートを取ることに注力していると、グラウンドからひときわ大きな歓声が上がった。佐賀美先生が「なにごとだー?」なんてゆるく言いながらグラウンドを見る。便乗して俺も視線を向けると、その先にはとんでもない光景が。長くて綺麗な髪をポニーテールに結んだ歌歩さんが、男子顔負けの豪速球をぶん投げている。しかも速いだけじゃない、ちゃんと取りにくい膝下を狙っている。アイドル相手に顔を狙わないっていう優しさかもしれないけど、だからってあんなの簡単にできることじゃない。絶賛アウト量産中。かと思えば男子が投げたボールも臆することなくキャッチしてる。反撃までのスピードが誰よりも速い。うわあ、すげえ。これ凄すぎて逆に凄いとしか言えないやつだ。歌歩さん、運動神経いいんだ…これは新発見。

攻守ともに歌歩さんの大活躍で、歌歩さんが居るチームが当然のように勝った。勝利の立役者である歌歩さんはあっという間にチームメイトの男子たちに囲まれる。ちょっと待って、近い!近すぎやしないか!しかもハイタッチしてる!あんな人数と!

どす黒い気持ちがふつふつと自分の中で広がる。今すぐあの輪に入っていきたい。歌歩さんにさわるなって言いたい。でも授業中だしそんなのは無理だしそもそも俺にそんな権利は無い。ああもう、今ほど窓側の席であることを恨んだことはない。もやもやした気持ちから逃げるようにグラウンドからも目を背けた。でもそんなことしたら余計に気になって逆に集中できない。…これで最後にする、そう心に決めて、ちらっと盗み見るように視線を動かす。


「…うわっ!!!?」


心臓が跳ねた。心臓どころか身体ごと跳ねて、しかも声まで出た。いや、だって!だって!!窓のすぐ向こうで、歌歩さんが笑顔で俺に向かって手を振ってるなんて思わないじゃん!!!


「なんだー?南雲、お化けでも見たか?」

「す、すんません!あの…!」

「はーい。お化けでーす」

「ん?…お、橘か」

「やっほー。俺もいるよー」


窓から顔を出して歌歩さんがフォローしてくれた。授業中なのに逢えて嬉しいとか、こんな脳内パニックな状態でも思えるものなんだ。明星先輩も一緒に来たことで創くんが珍しくハイテンションになってる。前に、明星先輩は憧れだって、目をきらきらさせながら言ってたもんな。きっと俺が大将を見るときと同じなんだろう。…ていうか、ちょ、待って。歌歩さん、芋ジャー姿でも可愛いんだけど。嘘でしょ。


「お前ら元気だな。で、どうした」

「ボール取り損ねて追っかけてきました」

「俺たち抜け番だからキャッチボールしてたんだ。でも俺がテンション上がりすぎちゃって、つい暴投しちゃって」

「大丈夫だよ明星くん。それで、ここまできたついでに一年生の授業を興味本位で覗き見したら、ご存知の通り驚かせちゃって……わたしの責任だから怒らないであげて」

「なるほどな。ま、俺らもそっちの授業見てたし、おあいこだ」

「あらら、見てたんですか?」

「うん。お前の投球フォームなかなかよかったよ。結構運動できるんだな。勝手に鈍くさいイメージだったわ」

「よく言われます」


佐賀美先生の言葉に苦笑いした歌歩さん。ごめんなさい、俺も思ってた、というより運動できるイメージがそもそもなかった。


「歌歩ごめん、実は俺も思ってた」

「知ってた。最初ずっと盾になってくれてたもんね」

「そりゃ女の子だもん、男が身体張るのは当たり前。でも途中からがんがんボール取るし俺より上手い説出てきてからは任せちゃったけどね」

「寧ろわたしが守備に奔走してたよね」

「だから勝てたの!歌歩ほんとに凄かった!」

「明星くんも大活躍してたね。わたしより多くアウト取ってたよね」


テンポが良い歌歩さんと明星先輩の会話。…やっぱり、タメっていいなあ。相手が明星先輩というのもあるだろうけどお互い気さくに話ができるのはタメならではだろう。いいなあ。


「まあ、頑張って。応援してるわ」

「ありがとうございます。…じゃあ、そろそろ戻りますね。授業中お邪魔しました」


去り際に「またねーしののん!タカミン!」と声を張る明星先輩に、暑苦しそうに返事した翠くん、対照的に元気よく返した創くん。他のひとたちも挨拶してる。…俺も、この空気に便乗してみてもいいだろうか。


「あの、歌歩さん!」

「はい」

「さっき、めちゃくちゃ活躍してましたよね。超格好よかったっス!」


うわあああああああっ!言っちゃった!ガン見アピールになっちゃったかな。気持ち悪がられないかな。大丈夫かな。


「ありがとう!次も勝つから、程々に見ててね」


次の瞬間に歌歩さんが見せてくれたのは、おひさまみたいな眩しい笑顔だった。俺の不安なんて全部吹き飛ばすような、きらきらした笑顔。こんなものが見られるなんて!声かけてよかった!窓側の席やっぱ最高!

そうして背中を向けた歌歩さんに翠くんがすかさず立ち上がり、ヘアゴムのキャラクターに過剰反応して授業が崩壊しかけたのは、また違う話。



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