チャンスは思いがけないところに




今日は翠くんと仙石くんと、お昼を一緒に食べる約束をしていた。久しぶりに三人でゆっくりできると、前日から楽しみにしていた。しかしそういうときに限って授業が延びてしまうもので。ようやく終わって、捕まらないギリギリのスピードで待ち合わせ場所のテラスへ翠くんと一緒に向かう。


「こっちこっちー!でござるー!」

「ごめん仙石くん、遅くなった…!」

「場所取りしててくれたんスね!大変じゃなかったっスか?」

「全然!今日は購買の方で人気のパンが出る日でござるから、テラスは然程混雑しないと踏んでいたので」

「確かに、割と空席あるね」

「読み通りっスね!さすが情報収集のプロ!」


仙石くんが取っていてくれた席に、翠くんと並んで座る。お昼が楽しみなのはきっとどこの学生も同じ。気を許せる友人たちとのお昼ごはんのときは、俺たちもアイドルじゃなくて普通の学生になれると思う。


「早速食べるっスよー!いただきまーす!」

「南雲くんのお弁当って、今日も鬼龍先輩が作ってくれたの?凄いよね」

「うっす!…翠くんも仙石くんも量少ないっスね。腹減らないんスか?」

「俺はこれ以上でかくなりたくないから…」

「拙者も、少食な方であるからして…」

「ほえー……こんな話の後にあれだけど、よかったら、ちょっとつまんでみるっスか?」

「…いいのでござるか?」

「ちょっとだけなら、いいっスよ」


大将の美味しいお弁当のおかずを少しお裾分け。きっと少食のふたりもこの味は気に入ってくれると思う。俺の読み通り、ふたりとも美味しいと言ってくれた。なんだか俺まで誇らしい気分。全然俺関係ないけど。


「今日も大将のお弁当は最高っス!」

「鬼龍先輩って、ほんと器用だよね」

「尊敬するでござる」


自分のお弁当を作るついでと言いながらも、俺のこともきちんと考えて作ってくれる。大将は芯が通っていて、男らしいのに優しい。本当に憧れ。俺も料理が出来ないわけではないんだけど…火を使うと何故か焦がすし、周りにも止められる。かといって火を使わない料理をする気にはならないもんなあ。


「俺も大将のように、いつかちゃんと料理できるようになりたいっス」

「うむ。それなら努力あるのみ、でござる………あ」

「仙石くん…?どうしたの?」

「拙者の見間違いでなければ……あれ、歌歩殿では?」

「どこっ!!?」

「おわっ!」

「うわわ、ごめん!」

「ぎ、ギリギリ大丈夫でござるよー」


俺が急に立ち上がったせいでふたりの飲み物がひっくり返りそうになった。咄嗟に仙石くんが反応してくれたから大事には至らなかったけど。流石、忍者というスピードだった。


「仙石くん、ほんとにごめん…翠くんも、驚かせちゃったっスね」

「俺は大丈夫。仙石くんさまさまって感じ」

「俊敏さなら自信があるでござる!でも、今のは拙者も悪かったでござるよ。歌歩殿の話を出せばこうなることは容易に想像ついたはずなので…」


ぐうの音も出ないとはこういうこと。だって実際、名前聞くだけで物凄い反応したし。仕方ないじゃないか、好きなんだから。


「それにしても、今更ながら鉄虎くんは本当に歌歩殿が好きでござるな」

「ちょ、仙石くん!声が大きいっスよ!」

「…へ?」

「そのこと、仙石くんと翠くんにしか言ってないんスから!内緒っス!」

「………」

「………」

「あ、一応姉御にも言ってるんだった。だから三人か………って、どうしたんスか?ふたりとも」

「いや…なんでもない…」

「せ、拙者も……」


なんか、ふたりの様子がおかしい。急にどもって、どうしたんだろう。俺、なんか変なこと言ったかな。


「…ていうか、南雲くん。行ってきたら?」

「え、どこに?」

「歌歩さんのとこ」

「え!?あ、いや!いいっスよ!今日はふたりと約束してたんスから!」

「遠慮しないの。それこそ俺たちはいつでも時間あるじゃん」

「そうでござるよ。幸いなことに歌歩殿、おひとりのようだし。これはチャンスでござる!」

「で、でも、誰かと待ち合わせかもしれないし…」

「そんなのわかんないよ。取り敢えず声だけでもかけてみたら?」

「じ、じゃあ!みんなで行くっスよ!大勢の方が、楽しいっス!」

「なに言ってるの。俺たちお邪魔虫以外のなにものでもないでしょ」

「ほら鉄虎くん、行った行った!早くしないと時間がどんどん過ぎるでござるよー」


俺は、翠くんのことも仙石くんのことも大事な友達だと思ってる。先に約束していたのは翠くんたちだし、ふたりと一緒のお昼は楽しい。だけど今、歌歩さんのところに行きたいと思ってしまっていることも事実。それが筒抜けでも、ふたりとも怒るどころかこうして背中を押してくれる。女々しい発言ばかりで尻込みしている俺を励ましてくれる。どんなに有難いことだろう。


「翠くん、仙石くん、ありがとう…!今度必ず埋め合わせするっス!」


行っておいでと見送ってくれるふたりに頭を下げた。食べかけのお弁当を一旦包み直して立ち上がる。周りのひとに迷惑が掛からないように、でもなるべく急いで、歌歩さんのもとへ向かう。神様、もし俺を見放さないでいてくれるなら。ふたりが見つけてくれたこのチャンスをどうか掴ませて。









「…翠くん」

「なに?」

「鉄虎くんが歌歩殿を好いていることは、奇跡的にご本人を除いて全員周知の事実ということは教えた方がいいでござるか…?」

「……いいんじゃない?ある意味それが牽制になってる部分もあると思うし。でも、南雲くんあんなに好意丸出しなのに気付かない歌歩さんって別の意味で凄いね……」

「…でござるな」



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