欲張りなぼくを許して





今日は流星隊の活動日。AV室が埋まっていたので集合は珍しく視聴覚室。身体を休める為にレッスンは無いけど、活動自体は休みじゃない。次のライブに向けての会議も大事なユニット活動のひとつ。今日は翠くんは掃除当番、仙石くんは急遽委員会の集まりということで、俺だけ先に向かうことになってる。

視聴覚室はあんまり行く機会がないけど、確かこの道だったはず。曖昧な記憶を頼りにうろ覚えで歩いていく。角を曲がった瞬間、目に映った人物に驚いた。間違いない、あの後ろ姿!


「歌歩さん!」


嬉しくなって思わず大きな声で呼び止めてしまった。俺に気付いて振り返った歌歩さんのもとに駆け足。……生徒会や先生には見られて無いようでよかった。


「南雲くん。こんにちは」

「こ、こんにちはっ!…って、どうしたんスか!めっちゃ大荷物じゃないですか!」


歌歩さんの細い腕でDVDデッキを抱え、両腕には資料が入っていると思われる大きめの手提げ袋がそれぞれひとつずつ。こんなの、どう見ても女の子ひとりが持てる量ではない。


「聞いてよ南雲くん。今から使う予定だった機材がね、急に仕事放棄してうんともすんとも言わなくなっちゃったの!」

「ま、まじすか」

「まじ!リモコンの不具合とか電池切れじゃなく、本当に本体のご臨終!それで仕方ないから先生の許可もらって教室から借りてきた!」


普段穏やかな歌歩さんにしては珍しく前のめりになっての主張。「それにしてもわたしが使いたいときに壊れるなんて酷くない!?」と、ほっぺを膨らませて怒ってる。ぷんすか、という表現がしっくりくる、漫画みたいな怒り方。それでも可愛い……ていうか、そんなことより!


「あの!荷物、持ちます!」

「…あ!持ってほしいアピールに聞こえちゃったよね!ごめんね、そんなんじゃないの。これくらい大丈夫よ」

「いえ!是非手伝わせてください!」


自分でもがっつき過ぎだと思う。これじゃ手伝いの申し出というより軽い強迫だ。手伝いたいのは本当だけど、ちょっとこれは押し売りに近い気がする。でも歌歩さんはいつものように笑って「ありがとう」と言ってくれた。…歌歩さんのお手伝いをしたと言えば多少遅れても隊長ならきっと許してくれる。寧ろ両手いっぱいの荷物を抱える歌歩さんを見かけておきながらスルーした方が怒られる……って、必死か。


「じゃあ…お言葉に甘えて、重たい方というか、デッキお願いしていい?」

「お任せください!…その手提げも、よかったら貸してください」

「ううん。こっちは大丈夫。分けっこして、一緒に行こう」


本当なら荷物は全部引き受けるべきだったと思う。でも情けないことに『一緒』という響きにまんまと負けた俺は「わかりました!」と頷いた。現金だなあ、俺。


「えっと、どちらに運べばいいっスか?」

「視聴覚室」

「視聴覚室っスね。りょーかいっス…………え?視聴覚室?」


俺が向かっていた場所も視聴覚室。AV室と間違えないようにと、隊長から念を押されているから間違いない。その場所に、歌歩さんも今まさに向かっていたということは。


「も、もしかして、今日は歌歩さん、俺たち担当っスか!」

「うん」


いよっしゃあぁぁぁああああ!!!!

隊長ナイス!よくぞ歌歩さん引っ張ってくれた!持ってる機材を放り投げて高々とガッツポーズしたい。でも機材持ってるから我慢。心の中で留めておこう。


「ていうか、行き先同じなら出合い頭で声かけてくれてよかったんスよ。俺のこと遠慮なく使ってほしかったっス」

「ごめんね。なんでかわかんないけど咄嗟に強がっちゃった」


うう、そこは咄嗟に頼ってもらいたかったなあ……俺がまだまだ頼りないってことかな、きっとそうだ。明日からトレーニングがんばる。超がんばる。


「でも、なんの迷いもなく手伝うって言ってくれて嬉しかった。ありがと」

「え…!あ、い、いえ!そんな大層なもんじゃないっス!当たり前のことっスよ」

「当たり前のことを当たり前にできるのって、素敵だと思う」


…なんて嬉しいこと言ってくれるんだろう。これだけで舞い上がっちゃう俺は至極単純だ。いいもん、単純でも。それで歌歩さんと話が出来るなら。…そういえば、この前一緒にお昼食べてから、あまり緊張しなくなった気がする。前より顔見て話できるし、会話自体もスムーズになったような。それでもまだ気を抜いてたり驚いたりするとたどたどしくなるけど。俺にとっては大きな進歩だなって思う。



結構な距離を歩いて一緒に視聴覚室に到着したけど、俺たち以外にまだ誰も来ていない。確かにまだ集合時間前だけど…ラッキー。もう少し、歌歩さんとふたりきりでいられる。寧ろみんなの用事延びろ。


「今のうちにさくっとセッティング済ませちゃおう」

「…あのっ!歌歩さん!」

「はい」

「俺にも、なにか出来ることないっスか?……あんまり細かくない作業だと有難いっス…!」

「そうだなー……じゃあ、コード全部抜くあいだデッキ押さえてて貰えるかな」

「うっす!」


歌歩さんがコードを引っこ抜くあいだ、デッキが動かないよう押さえる。簡単なことだけど俺でも出来ることがあってよかった。ていうか…歌歩さん、作業早いな。あっという間に全部のコードを外した。おっとりしてるように見えて、てきぱき仕事こなすんだよな。運動神経も良かったし。


「よし、第一段階おわったー」

「こっちのデッキ、どこに運べばいいっスか?」

「あとで職員室持っていくから、忘れないように目につくところがいいな。入り口付近の、あの机の上にお願いしていい?」

「はい!」


細かい作業は出来ないけど、こういう力仕事なら役に立てる。ちょっとしたことでも歌歩さんの役に立ててるなら嬉しい。指示された場所にデッキを置いて戻ると歌歩さんはてきぱきとコードを繋ぎ直しているところだった。…やっぱり器用だな。


「歌歩さんは、こういうの得意なんスか?」

「多分だけど、割と慣れてる方かな」

「俺から見ればめっちゃ上手いっスよ。ちゃんと知識あるんスね」

「心当たりがあるとしたら…中学三年間、ずっと放送委員会に所属してたことかな。だからかな、ちょっと機械が違ってても、大体わかる」

「まじすか!凄いっスね!」

「ありがと。でもまさか、それがこんなとこで役立つとは思ってなかった」


なにごとも経験だね、と笑う歌歩さん。…歌歩さんは、どんな中学時代を送ってたんだろう。やっぱりモテたのかな。彼氏とか…いたのかな。こんだけ可愛いもんな。可能性は充分にありうるよな。考えれば考える程マイナス思考になりそうだ。よし、軌道修正しよう。


「委員会、どんな活動してたんスか?」

「多分、仙石くんたちが普段してることとあんまり大差ないよ。毎日の校内放送メインで、あとは朝礼とかイベント時のマイク調整とか、ビデオ撮影もしたよ」


その声で校内放送してたんだ…歌歩さんの放送で、いったい何人が癒されていたんだろう。きっとマイク越しでも綺麗な声なんだろうな。おなじ中学のひとたち羨ましすぎる。


「歌歩さんの放送、聴いてみたかったっス…」

「そう?でもどうせなら校内放送より体育祭のアナウンス聞いてほしいかも。いちばん気合い入れてたから」

「そんなこともしてたんスね。よくある『赤組がんばってください』的な、あれっスか」

「そうそう。実況のやつ。あれ結構大変なんだよ、『がんばってください』も割とNGワードで」

「そうなんスか?」

「うん。例えばリレーで南雲くんが最下位で走ってるとして、『最後まで諦めないで!』とか『がんばってください』って言われたらどう思う?」

「あー……確かに『言われるまでもないわ!』って、思っちゃうっス…」

「ね。わたしもカチンと来るタチだと思う。だから冒頭部分で『みなさんがんばってください』とだけ使ったりね。意外と不便ワードだったんだ」

「意外と奥が深いんスね」

「びっくりだよね。自分で言われたら嫌なくせに、教わるまでは全然気にしたことなかったもん。あとは入場と退場と競技中のBGM編集、自分がアナウンス担当する競技の原稿つくってひたすら練習、機材の調整…他にもやることいっぱいで体育祭前後はとにかく忙しかった」

「なんか、話聞いてるだけでむちゃくちゃ大変そうっスね…」

「ほんとにそう。本番終わるまでは気が気じゃなかった。でも楽しかったよ。自分のアナウンスひとつで会場盛り上がるし。やりがいは凄くあった」


終始にこにこしながら話す歌歩さんの表情を見て、当時がどれだけ充実していて楽しかったかというのがよくわかる。いいな、微笑ましいなと思う反面、俺の知らない歌歩さんが居ることをこれでもかと突き付けられてしんどい。いや、よくよく考えれば知らないことばかりだ。

歌歩さんの中学生時代を見にタイムスリップしたい、ここの引き出しを開けたらタイムマシンとか出てきたらいいのに。…こんな非現実的なことばかり考える女々しい癖は、いつになったら治るのだろうか。


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