綺麗な部分だけ必死に見せる





今日はレッスン前に、姉御から改めて採寸をさせてほしいと依頼が入った。衣装を作っていただく立場にある俺たちには大事なことで、隊長はもちろん快諾。翠くんだけは相変わらず「背伸びてたら嫌だな…知りたくない…鬱だ…」なんて言ってる。そしてそのあとは仙石くんと身長の話で盛り上がるのは、いつものルーティン。

いつものユニット衣装もいいけど、俺も新しい衣装はいつだって着たいし採寸には喜んで協力する。しかし、まさか歌歩さんまで一緒だとは思わなかった。しかも姉御の計らいで歌歩さんが俺担当になるように段取りをつけてくれた。なにそれ、そんな、お気遣いありがとうございます。


「それじゃ、さくさくっと測っていきますねー」

「お、おおお、お願いするっス!」

「はーい」


緊張でがっちがちな俺とは対照的に、なぜだか解らないが歌歩さんはご機嫌な様子でメジャー片手に鼻唄を歌っている。…へえ、こんな一面もあるんだ…意外。珍しい。そして可愛い。そのまま貴重と思われる鼻唄を聴いていたら、不思議と緊張が解れてきた。


「それ、なんの歌っスか?」

「えっ……あ、ごめん!うるさいよね!耳障りなら黙る」

「そんなことないんで、続けてくださいっス。ただ、歌歩さん楽しそうだったから、気になって」

「なら、いいけど。…えっと、昨日観たアニメのオープニング」

「調子のいい曲っスね」

「ね。中毒性あって、たまらないんだ」


どんなアニメだったのか話を伺ったら、意外なことに少年漫画が原作の、ガチの戦闘系アニメだった。「よかったらDVD貸す?」なんて言われて間髪いれずに首を縦に振った。アニメは勿論面白そうだけど、それ以上に歌歩さんの私物を借りられるなんて……と、かなり変態くさい考えが浮かんだ。でもいいや、歌歩さんと同じ話題が出来れば話しやすいだろうし。歌歩さんのお気に入りを共有させてもらえるのは嬉しい。


「ちょっとした癖なんだよね、鼻唄。テンションあがると、つい口ずさんじゃう。うるさかったら言ってね」

「全然平気っスよ。てか、今テンション高くなる要素あるんスか?」

「ある!めっちゃあるよ!誰かの採寸するの久しぶりで、なかなか楽しい」

「面倒じゃないっスか?」

「全然!わたしこういうの全然苦にならないタイプっぽくて。一年生のとき、よく代わりばんこでやってたなーって思い出す」


代わりばんこ…男子とも、したのかな。さすがにそれはないと思うけど、ないとも言い切れない。しかもお互い仕事感覚なら、あまり深く考えずにできるのかもしれない……次から次へとあらぬ想像が頭をよぎる。それ以前に俺の知らない歌歩さんのことを考えたら複雑な気持ちになった。ああ、また俺の悪い癖が出てきた。


「…南雲くん?」

「え、あ、はいっ!」

「どこか痛い?引っ掛かってる?」

「え、いや、大丈夫っスよ!」

「そう?なんか難しい顔してたから…なんか違和感あったら、ちゃんと教えてね」

「う、うっス!」


百歩譲って嫉妬するだけなら勝手だろうが、歌歩さんに変な心配や不安を与えていい理由にはならない。俺個人の感情で、歌歩さんに迷惑かけるわけにはいかない。歌歩さんは今プロデュース科のひとで、俺たちのお手伝いをしてくれてるんだから。逆にこれは演劇科のひとたちが知らない姿なんじゃないかって思ったら、それはそれで優越感。それに演劇科にいたからこそスムーズに採寸できるんだろうし。嫉妬はするけど、過去に文句言うのは筋違いだろうな。

……ていうか、近い!大将や姉御では全然気にならなかったのに、歌歩さんになった途端にこの距離の近さが気になる。無理!耐え難い!しかもなんか心なしかいい匂いする!なんかもう全部が心臓に悪い!早く終わってくれという気持ちとまだ終わるなという相反する気持ちがごちゃごちゃになってよくわからない。


「…うん、採寸してよかった。南雲くん、筋肉ついたみたい」

「そ、そうっスか…?だと、いいっスけど」

「毎日逢ってると気付かないものだけど、割と全体的に数字変わってる。日頃の筋トレの成果でてるんじゃないかな」

「あ、あざっす…!」


褒められた…のかな。日頃の成果って言葉に、毎日がんばってるねって意味が込められてる気がしたからきっと褒められてるんだろう。俺が都合よく解釈してるだけかな。だとしても悪い意味で言われてない。筋トレしててよかった…!今までがんばった俺えらい!明日からも引き続きがんばろう!


「ごめん南雲くん、ここちょっと留めちゃうねー…………あ」

「!!!!!!」


今までのうきうき気分が一瞬で消えた。心臓が止まるかと思った、寧ろ確実に止まった。歌歩さんの中指に安全ピンが突き刺さった現場をモロに目撃したからだ。心臓に悪いとか、さっきまでの考えなんか比べものにならないくらいの一大事。


「ちょ!歌歩さん!針!指!!血!!!」

「大丈夫だいじょーぶ。落ち着いて」

「落ち着いてられるわけ……えっ」


目を疑った。間違いなく刺さったように見えたのに、歌歩さんの指からは出血どころか傷ひとつ付いてない。まるで、なにごともなかったかのように。


「ね、大丈夫でしょ」

「あ、はい、そうっスね…」


拍子抜けしてしまい、つい変な返事に。でも確かに刺さったように見えたけど、あれ?俺の見間違い?そんなまさか。あれ?なにこれ、手品?


「驚かせてごめんね。えっと、南雲くんはわたしがお箏してたの知ってるよね」

「あ、はい、それは…」

「その影響で指固いの。お箏でいい音出す為には皮を固くする必要があってね」

「な、なるほど…」

「現役の頃は随分鍛えたからね。だからちょっと針が刺さるくらいじゃ傷つかないんだ」


さわってみる?なんて差し出されてしまった。こんな形で歌歩さんの手にさわる機会が訪れるなんて思ってもみなかった。一応「し、失礼するっス」と声をかけてから、指の腹をふにふにとさわらせていただいた。既に混乱している頭での行動、いろいろな要素が重なって重度のパニック状態だ。


「…確かに、固いっスね」

「でしょ。お陰でちょっとやそっとのことじゃ痛くないんだ。これでも当時と比べればまだ柔らかくなった方なんだよ」

「そうなんスね。…で、でも、やっぱり心配っスから。今後刺すことがないようにしてほしいっス…」

「大丈夫ってわかったうえで心配してくれるんだね。ありがと。わたしも気を付けるね」


南雲くんは優しいね、なんて言われてしまって反応に困る。俺は別に優しくなんかない。こんなに心配するのは歌歩さんだからだし。他のひとでも心配しなくはないけど、ここまで気にするのも気遣うのも、全部歌歩さんだから。極端に言えば、歌歩さんのことしか気にしない。歌歩さん以外は、どうなっても構わない。

そんなことを平気で考えられる俺は、どっからどう見たって、どう考えたって優しくなんかない。



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