4話 部活

4話 部活


4階にある音楽室Uが軽音部が活動する教室らしい。
音楽室Tは吹奏楽部が使っているという。
教室に近づいていくとドラムをリズミカルに叩く音が聞こえてくる。割と上手い。
春樹と秋斗の心拍数も上がっていく。

ーガラッ

「たのもーーー!!って、あれ?」
「え、お前ら、どうした」

そこには朝会ったばかりの灰がドラムを叩いて、いた。

「あんた、会長のお付きの人」
「楠木姉、あんまりな言い方だな。まあ、オリエンテーション明日だから仕方ねーか」

灰はドラムセットの椅子からから立ち上がり、3人の元へ。
3人は生徒会長の雅の役職は知っていたが、灰の役職はまだ知らなかった。

「俺は荒木灰。2年。生徒会副会長サマだ」
「「「え」」」
「おい、なんだその意外そうな顔は」
「あんたみたいなちゃらんぽらんそうな人が副会長できんの?」
「楠木姉、お前辛辣だな?」
「楠木姉って名前じゃない。私は春樹。弟は秋斗」
「はいはい。んで、そっちのは確か、かし、かしわ、柏餅?」

ブフッ。
春樹と秋斗は同時に吹き出す。

「柏木ですぅー!柏木涼太!!」
「柏餅かと思った。もうお前のあだ名『餅』でいいじゃん」
「え、あだ名やった!!」

まさかのあだ名決定に喜ぶ涼太だが、『餅』でいいのか。
双子は同時に突っ込む。

「「喜ぶのかよ」」
「え?あだ名ってうれしくない?」
「私はあんたがわからん」
「同じく」

そもそも双子はあだ名を付けるほど他人と親しくなったことが無い。

「でも楠木姉弟は空手部だろ?雅が言ってたぞ?」
「仲良いな。あんたら出来てんの?」
「春樹、お前面白いこと言うな?まあ、雅可愛いだろ?俺はノンケだけど」

ニヤニヤするその灰の言葉に少しモヤモヤする。
何故だろう。
自分の知らない玖木雅を知っている荒木灰が、憎い。
何故??

「空手部は毎日じゃねぇし、掛け持ちしたいんだけど」
「掛け持ちなー。俺は構わねぇよ。学校的にも大丈夫だし」
「先輩、先輩、他の部員は?」
「え、いないけど」
「「「え?!」」」

衝撃の事実。
灰の話では主力だった部員は全員3月に卒業し、灰とバンドを組んでいた現2年生2人は退部したらしい。
退部理由は音楽性の不一致という。

「アイツらはコピーやりたいみたいで、俺はオリジナルやりてぇし、コピーなんかつまんねぇよつったらキレて辞めた」
「わお……」
「お前らもコピーやりたい?」

挑発するような灰の表情。
春樹はなぜだか対抗したくなった。

「作詞なら私がするし、作曲なら秋斗がする」
「え?!春樹ちゃんと秋斗作詞作曲できんの?!すげくない?!!」

涼太のテンションは急上昇し、ずっと「すげぇ!!すげぇ!!」を繰り返している。

「なんでお前やる気になってんの」
「私、歌が好きなんだよ。秋斗とやる音楽が好き。茉妃奈さん以外にも聞いてもらいたい」
「茉妃奈さん??」
「オレ達の叔母さん。……育ての親」

双子の過去を知った灰と涼太は納得する。
そして灰はその『茉妃奈』という人物が聖母のような存在だから2人はまだ生きているのだと勘違いしていた。
聖母のようで、彼女は悪魔だった。
血は、争えないのだ。
所詮はあの母親と同じ血が流れてる。

「よし!じゃあ、俺ドラムやるから、春樹がボーカル?秋斗と餅は?」
「オレはギター」
「じゃあ、俺ベースか!!」

買わなきゃなーと悩んでいる涼太に双子は「「ちょっと待て!!」」と叫ぶ。

「え?」
「お前、なんも経験ないの?」
「ない!!ただなんか憧れてたから軽音部入った!!」
「私はあんたがわからん」
「同じく」

そんな後輩のやり取りにわはは!と豪快に笑う灰。
3人はなんだ?と疑問符を浮かべる。

「まあ、初めはそんなもんだよ。俺もモテたいから始めたもん」
「モテました?」

秋斗の問いに、ニヤリ……と灰はいやらしくわらったので、3人はああこれは来る者拒まずだったんだなと察した。
でも、彼は彼でつらい恋をしている。

「じゃあ、俺がドラムで春樹がボーカル、秋斗がギターの、餅がベースな」
「やったー!!」
「秋斗はギター持ってるか?」
「中学の時に茉妃奈さんが買ってくれた」

バトロン付きうらやまーと呟いて灰は準備室の扉を開ける。
何をするのだろう。

「灰先輩?」
「ちょっとベース探すわ」

そういうと灰は準備室に消えていく。
3人は手持ち無沙汰になったのでとりあえず置いてあった椅子に座って雑談する。

「ベースっていくらくらいする?」
「ピンキリだぞ」
「ちょっと待って、調べるから。……初心者ならこれとか?」

通販サイトで見つけたのは1万5000円程のベース。
社会人ならまだ安いだろうが、高校生には、高い。

「ぐぬぅ……。俺は掛け持ちしないしバイトするかー」
「この学校バイトいけたっけ?」
「知らね」
「しょもん」

本当に涼太はコロコロと表情が変わる。
なんか、見ていて楽しい。

「おい、餅、喜べ!あったぞ!!」
「え!マジすか!!」

バンッと扉を開け準備室からテンション高めで入ってくる灰。
それに伴い、餅こと涼太のテンションも上がる。
灰の手には黒1色のベースが握られていた。

「俺、黒好き!!」
「おー、気に入ったならよかったわ」

ベースのソフトケース等も探し出し、貸出準備完了。
それから少し灰と秋斗が音楽室にあった教材を元に涼太にベース講座を開く。
涼太は飲み込みが早いようだ。

「へぇ、やりたいって言っただけで飲み込み早いじゃん。見直した」
「春樹ちゃん!俺に惚れたらダメだよ!!俺カノジョいるから!!」
「いや、ありえない。うるさいヤツ嫌い」
「「ぶはっ」」

ガーン……と口にし落ち込む涼太とは対照的に秋斗と灰は大爆笑している。
灰に至っては腹を抱えてのたうち回っている。

「春樹、お前面白いな?俺、お前好きだわ」
「え、ちゃらんぽらんな奴も嫌」
「「ぶはっ」」
「辛辣すぎるだろ」

今度は秋斗と涼太が吹き出す。
ああ、学校って楽しい場所なんだと思った。

それからしばらく軽音部で活動して、帰宅する。

「「ただいまー」」
「あら、今日空手部ないんじゃなかったの?」
「あー、友達に誘われて軽音部に行ってた、から……」

ピクリ。
茉妃奈の右の眉が上がる。
ヤバい。

「……入るの?」
「……あの、」
「……茉妃奈さ、ん」
「入るの?」
「「……うん」」

茉妃奈は2人に平手打ちをする。

「「……っ」」
「……出来もしないことしないで」
「……ごめん」
「……でも!私たちは……!」
「口答えしないで!!」

今度は春樹の頬を拳で殴り、春樹は弾みで冷蔵庫にぶつかる。

「……っ」
「春樹!!……ごめん茉妃奈さん、でもオレ達はやりたいんだ!!」
「口答えするなって言ってるでしょう!!」

それからは地獄だった。
ひたすらに2人は殴られる。
やはりあの親と同じだった。気に入らなければ殴る。悪魔だ。
でも、2人は茉妃奈が自分たちを心配していることを知っているからなにも出来ない。
なにも、しない。

思う存分殴らせれば、「ごめんね。でも心配だったの」と2人を抱きしめて、泣く。

それが金曜日。
土日で顔の腫れは引いたが少し痛々しい傷は残っている。
月曜日。登校した2人は涼太に詰め寄られるが、「殴り合いの喧嘩をした」と笑えばもうそれ以上はなにも突っ込んでこなかった。むしろ、彼は愉快そうに笑った。
双子でよかった、と思った。

今日は空手部の仮入部をした。
練習に参加して、汗を流す。
今日参加したのは春樹と秋斗だけだった。

「じゃあ、お前らの実力見たいから誰か好きなやつ指名していいよ」

そう山橋に言われ、春樹は「手加減してくれそうな人がいいです」と逃げたが結局相沢が相手になりげっそりする。
秋斗はもう決まっていた。

「……会長で、お願いします」

周りはザワつく。
その理由は対戦して分かったのだが、雅はその挑発にニヤリと官能的に笑った。
ドキリと脈打つ。やはりなんだろうこれは。

「いいよ、やろうか」
「手加減はいらないんで」
「分かった」

先に春樹が相沢と対戦する。
全く歯が立たない訳ではなくそれなりに互角……程度に戦えていたが、やはり年の差は覆せなくて負けてしまった。

「なかなかいい腕の持ち主ね」
「ありがとうございます」

そして、秋斗と雅の対戦。
構える。始めの合図、直後。
雅の強烈な蹴りが秋斗の脇腹に入り、秋斗は思わず尻もちを着く。手も足も出ない。

「(は……?!まじかよ?!)」
「あー、雅を指名したのが間違いだな。こいつこれでも全国トップクラスだから」
「あー、はは」
「はぁ?!」

2年で生徒会長の上に空手は全国トップクラス。
これで頭がいいとしたらどんだけハイスペックなんだ。

「ぷぷっ、秋斗だっせー」
「うるせぇ春樹笑うな!!」

くっそー!!と呟いて立ち上がろうとする秋斗に雅が手を差し伸べる。

「大丈夫?加減がいらないっていったからつい」
「……いや、大丈夫っす。ありがとうございました。強いっすね」
「ありがとう」

結局、秋斗の実力がよく分からないので他の部員と対戦することになり、その部員も結構強かったのだが、なんとか勝った。

「今年はいい人材が来たな」

と部長2人は嬉しそうに笑った。
部員もそんなに悪い感じではなかったので、2人は安心する。
それは2人が入学式の日に見学した後、雅が噂話で盛り上がる部員達を一喝したからだったりする。

2人は、結局、茉妃奈からの許しも得て空手部と軽音部の両方に入部した。


ーつづくー