3話 信頼できる人

3話 信頼できる人


「待てよ!これはお前が!!」
「いや、オレです。オレが悪い」

そう。全て自分が悪い。
秋斗は何かを言いたげな涼太を制止して生徒会長と生徒会副会長……雅と灰に歩み寄る。
もう、どうだっていい。
でも、あの人は怒るだろうか。

ああ、いやだなぁ。

「……じゃあ、キミが説明してくれるの?」
「……はい」
「わかった。じゃあHRまで時間あるし、ちょっと生徒会室まで行こうか」
「……はい」
「おら、野次馬散れ!!見てんじゃねぇぞ!!」

灰の一声で野次馬達はバッと蜘蛛の子を散らしたように去っていく。
秋斗は雅に着いていく。
でも、ふと、涼太に目をやる。
涼太は何かを言いたげだった。

「……柏木。オレにはお前が眩しすぎるわ」

ごめん。もう、関わるな。
……話しかけてくれて、ありがとう。
秋斗は雅達と共に生徒会室へ向かった。



「さて。そこ、適当に座っていいよ」
「……あ、はい」

生徒会室は職員室を小規模にしたような作りをしていてソファーも置かれている。
雅は自分のワークチェアに腰掛け、隣のワークチェアを指さす。
秋斗は遠慮がちに座った。
灰は扉に寄りかかって立っている。

「……もしかして、色々言われた?」
「……アンタも知ってんすか」
「……またまた職員室で先生方が話してるのをね」
「……うざ」

雅はまた泣きそうな顔をする。
本当にこの表情は何なのだろう。

秋斗は何故かたまらなくなってぽつりぽつりと語り出す。

「……オレは、オレ達は確かに虐待を受けていた。確かに親を憎んでる。殺してやろうとも思った。でも、あのクソ野郎共を殺したのはオレ達じゃないし、春樹は、姉貴は親父とそんなことしてない」

殺したのは……。
春樹と秋斗は知っている。
知っていて、知らないふりをしている。
『あの人』の罪を許しているから。

「……どうして、周りの奴らはキミ達を悪くいうのかな」
「……え?」
「キミ達は被害者だろ?守られはしても貶される筋合いはない」

秋斗は目を見開く。
今まで外の人間はお前達が殺ったんだろう!!と罵倒してきた。でも、この男は違う。
泣きそうな顔で、「つらい想いをしたね」と慰めてくれた。
秋斗も思わず泣いてしまいそうになる。

「でも、キミは独りじゃないよ」
「……え?」

雅が微笑むとタイミングを見計らったかのように、こんこん、と控えめなノックが聞こえてくる。
灰が「はいはい、どちら様ー?」と扉を開ける。
そこには春樹が居た。

「……春樹」
「……柏木?ってやつがお前が生徒会室に連れてかれたって」
「あのアホ……」
「……また私のためにキレたのかよ。馬鹿じゃん」
「……泣くなよ」
「泣いてねぇし!」

秋斗は優しく春樹の頭を撫でる。
お前は悪くない。
もう、泣くな、と。

「……大丈夫。キミらは独りじゃないよ。なんかあれば此処に来ればいい。俺か灰が居るから」
「雅ぃ、私物化すんなよぉー?」
「私物化?人聞き悪いな。ちょうど雑用係が欲しかったんだよ」
「「え、そっちのが悪っぽい」」

双子が揃って呟くと灰はにやり。悪い顔をする。

「まあ、当時1年で生徒会長に当選したしな?結構このお兄さん怖いぜ?気をつけな」
「灰?」
「ほら!怖い!!」

何となくやり手なのはわかっていたがでも周りがこの男を生徒会長にしたのは正解だと思う。
こんな慈悲深い人間がいたものか。
ちょっと、怖いけど。

「それに、あの……柏木くん?あの子もキミ達を受け入れてくれると思うよ」
「……でも」
「まあ、怖いよね。身近にもそういう人間不信なやついるからわかるけど、周りはそんなに攻撃的なヤツらばかりではないよ?キミ達も周りを……優しい仲間を受け入れなきゃ」
「……優しい、仲間」
「……そんなの、」

そんなのいない。
いないよ。
でも、いて欲しい。
2人じゃ、寂しい。

「まあ、俺と雅はウエルカムだからいつでも来いよ」
「雑用はしてもらうけど」
「「……魔王」」
「ん?」
「「なんでもないっす」」

この2人の優しさは、双子には堪えた。
つらい。優しさがつらい。
信じてしまいたい。
でも、いいんだろうか。
そんな狭間で2人は息を吸えた。

「じゃあ、もうHR始まるし解散!」
「え?反省文とかないんすか?」
「え?ないよ?悪いのは向こうだし、生徒会室に呼んだのはただ『大丈夫だよ』って伝えたかったからだし」

ああ、もうこの男(ひと)は。
なんて、優しいんだろう。

「あの、本当にまた此処に来てもいいんですか?」
「いいよ。いつでもおいで」

不安そうに尋ねた春樹はかつてないほどに嬉しそうに柔らかい笑みを浮かべた。
灰が「え、この子可愛い」と呟いたので秋斗がキッと睨んで威嚇すると彼は肩を竦め舌を出す。

そして生徒会室から出て、それぞれ教室へ。
雅と灰は同じクラスだそうだ。

2年生と別れる。

「……会長いい人だな」
「……惚れたのか」
「……バカじゃん?」

秋斗はシスコンを表に出し雅に嫉妬する。春樹はそれを笑う。
これが、雅に近づく人間全てに嫉妬するようになるまであと少し、もう少しかかる。

まだ全ての重荷が取れた訳では無い。
ただ少し双子の心は軽くなった。

春樹と別れて、教室に入るともう担任は来ていて「柏木から話は聞いた。まあ、早く座りなさい」と言われた。
涼太がどう説明したのかわからない。でも、クラスメイト達が肩身を狭そうにしていたので秋斗は疑問符を浮かべながらHRを受けた。

HRを終え、休憩もなしに1限目はLHRで自己紹介や今後の日程の説明、委員会決め等をした。
2限目も引き続きLHR。休憩を挟む。

「秋斗!!」
「……なんだよ、関わんなよ」
「なんでそんな事言うんだよ。俺は関わりたいやつと関わる。だからお前と関わる。悪いか」

フンっと涼太はふんぞり返る。
秋斗は呆れた。

「オレは」
「お前がもし親を殺してたとしても正当防衛じゃない?だって虐待受けてたんでしょ?仕方ないじゃん。それにお前の姉ちゃんが親父とヤバい事するような女の子には俺は見えない!」

ああ、優しい男(ひと)は此処にも本当にいたのか。
秋斗は笑った。
久しぶりに他人と会話して、笑った。

「え、なんで笑うんだよ!」
「お前が変人だからだよ、涼太」
「え?!なま、名前!!」
「しょうがねぇから呼んでやるか。あ、でも、春樹はやらねぇからな」
「大丈夫!俺カノジョいるから!!」
「え、まじかよ……」

ちょっとショックだった。
秋斗はそういう人が今までいなかったから。

それから涼太の幼なじみである彼女の話で盛り上がり、チャイムが鳴って、授業を受けて、放課後になる。

「なーなー、軽音部入ろーぜ?春樹ちゃんと秋斗と俺と誰か入れてバンドしよー」
「バンドなぁ。……まあ、ギターなら弾けるけど」
「まじ?!!」

涼太の輝く笑顔に、あ、失敗したと思った。
中学の時に茉妃奈が買ってくれたギターを秋斗が弾いて、春樹がそれに合わせて歌うのが2人の楽しみだった。
秋斗が作曲をして、春樹が作詞をする。そんなオリジナルの曲を演奏したりもして茉妃奈を楽しませていた。

「じゃあ、じゃあ、じゃあ!春樹ちゃん歌上手い?!やっぱり女の子ボーカルのがいいじゃん!!」
「私が何?」
「わっ!びっくりした!」

昨日みたく教室で春樹を待っていたら急にひょっこり現れたから涼太はびっくりする。

「いや、バンド組もーって話!!俺とー、秋斗とー、春樹ちゃんで!!」
「勝手にオレ達をいれんなよ」
「……まあ、いいんじゃない?私、ボーカルがいい」
「え、いいの?!」
「は?乗るのかよ」
「歌うの好きだし、秋斗がギターするなら」

こうして、3人は軽音部に入ってバンドを組む約束をする。
空手部は月水金と奇数週の土日が活動日なのでまあ、なんとかなるだろう。
そして、今日ついでに軽音部に見学に行こう!!と涼太が双子を無理やり引っ張っていった。



ーつづくー