同性カップルの親を持つ子供なんて不憫だけど、でも、俺達も親になりたかったんだよ。

同性カップルの親を持つ子供なんて不憫だけど、でも、俺達も親になりたかったんだよ。


灰や泪が子供を持ち、会いに行くたびにその愛らしさにたまらなくなって、どうして自分は男なんだろうと悲しく思う。

どうして、自分も『親』になることが出来ないのか、と悩んでいた、26歳の、夏。

「養子とるか」

「ごふっ!?ゲホッゲホ……!!」

雅が作ったカレーを食べながらパートナーの秋斗が突拍子のない発言をしたものだから、雅は飲んでいた麦茶を吹き出し、噎せる。

「ゲホッ……は?!な、何、言ってんの?!」

「だってお前、子供欲しいんだろ?」

「いや、そう、だけど……」

相変わらず、秋斗にはなんでも見破られてしまう。
敵わない。
秋斗は雅を愛しているから、なんでもわかってしまう。
まあ、雅が分かりやすく顔に出るからなんだけど。

「オレも子供可愛ーな、って思うし」

「でも、同性カップルの子供になるなんて、荷が重いだろ……」

「日本じゃまだハードル高いよなー。アメリカ行くか?」

「はぁ?!」

お前も全米デビューすりゃいいじゃん!と楽しげに笑うパートナーに、ため息しか出ない。

「まあ、これは冗談だけどな。……養護施設とか行ってさ、俺達の子供になる覚悟ある子いたら引き取ろうよ」

「でも、」

「オレ達にだって親になる資格あるよ」

「秋斗……」

どうしてこんなにも嬉しいんだろう。
嬉しくて、泣きそうになる。
そんな雅の頬を優しく撫で、秋斗はまた大好物のカレーを頬張る。

それから2人で調べた結果、まだ日本では大阪市以外、同性カップルが児童養護施設等で子供を引き取って面倒を見ることはできないし、異性カップルみたいに特別養子縁組を組んで『親子』になることは出来ず『里親』という形にしかならないらしい。

日本はどこまでも同性カップルに手厳しい。

異性カップルが子供を捨てるのに、どうして異性カップルしか『親』になれないのか。

しかし、やはり2人とも諦めきれず、大阪市でもパートナーシップ制度は導入されているし、大阪市移住を決意、仕事の合間を縫って2人で児童養護施設を巡る旅をする。

初めは東京の施設に向かった。
しかし、事情を話すと、施設長に偏見され、断念。
それがしばらく続き、ようやく子供達と会って話が出来る施設にたどり着くが、幼い子供は「お兄ちゃん達、どっちかお姉ちゃんなの?」と理解されず、そこそこの年の子供には、「……無理。気持ち悪い」と拒絶された。
あるいは、音楽業界で働く雅に取り入って優越感に浸ろうというミーハーな子供で、「迫害を受けても自分たちの子供になりたいか?」と問うと、首を横に振った。

それから挫けそうになりながらも全国各地の施設を巡ったが、彼らの子供になってくれる子はいなかった。

「…………やっぱり無理なんだな」

「…………まだ決まってねーよ」

「でも……」

もう、無理だよ……。
雅は泣きそうになる。
やっぱり日本じゃそう簡単にはいかないのか。

「…………アメリカ行くか?」

「…………アメリカはアメリカで日本人差別あるだろ。それに俺はお前と出会った日本で生きて死にたい」

ギュッとしがみついてくる雅が急に可愛いことを言うので秋斗は堪らず彼を抱き寄せて口付ける。

「……んっ、なに?」

「急にデレんな」

「だって、事実だもん。俺は秋斗といれたらそれでいいよ。もう子供も、いいから」

諦めたくない。
でも、やっぱり叶わないんだ、こんな願い。
自分たちは、『普通』じゃないから。

「……とりあえず、明日行くとこは行こうぜ?もうアポ取ってんだし」

「……うん」

明日は朝から新幹線に乗って大阪に行き、ある施設に向かう予定だ。

2人は抱き合って寝て、次の日に備えた。

次の日。

「はじめまして、楠木さん、玖木さん。僕はこの施設の施設長の大柳いいます」

大柳は、初老の、人の良さそうな男だった。

2人は「はじめまして、よろしくお願します」と頭を下げる。

「いやぁ。あの天才作曲家さんに会えるなんて光栄やわぁ。僕も色々聴いてるんですよ。貴方の曲好きな子がおってねぇ」

「え、そうなんですか?」

「ええ。中学生と小学生の兄弟なんですけどねぇ」

もしかしたら、その子達が、なってくれるかもしれない。
自分たちの、『子供』に。

それから少し施設のリビングで大柳と話をする。
子供達は今、部屋か庭でいるらしい。

「では、覚悟のある子をと?」

「はい。どうしてもオレ達みたいなのが親では迫害も考えられます。……本当は望んじゃいけないんですが……友人に子供が出来て、それが、羨ましくて」

「僕達も、親になりたいんです」

「話は分かりました。そうですね。あの子達なら……」

「「あの!!」」

「萩(はぎ)、藤(ふじ)。どうした?」

よく似た2人の男の子がリビングに入ってくる。
歳は中学生と小学高学年くらいだった。
兄弟だろうか?と思っていると、大柳が「この子達は大木(おおき)萩と大木藤、兄弟です」と紹介してくれる。

「悪いが、もう少し部屋か庭で……」

「お2人は里親希望なんですよね?」

「だったら僕達を2人の子供にしてください!!」

「「「え?!」」」

突然の申し出に、大人たちは困惑する。

しかし、大柳はふと微笑む。

「彼らがさっき言うてた兄弟でして。玖木さんの曲が大好きなんですよ」

「«sins»も好きです!!」

「凄く、凄く憧れてて、今日来るって聞いてたから楽しみで……だから、だから、俺達を貴方達の子供にしてください!!」

お願いします!!と兄弟は頭を下げる。
雅は椅子から立ち上がり、兄弟の元へ歩いていく。
そして、2人の前で、2人の目線に合わせ、膝立ちになる。

「……気持ちは嬉しいよ。でも、俺達の子供になるなら、少し覚悟が必要だよ?」

「覚悟……」

「……俺達は同性カップルで、世間から見たらまだ少数で、『普通』じゃない。だから、俺達の子供になったら、周りから色々言われるかもしれない。それでも、俺達の子供になりたい??」

兄の萩も、弟の藤も、真剣な表情で雅を見つめる。
そして、萩は言う。

「……俺達は貴方達の生き方も尊敬してます。少数派で、色々言われた時期だってあったのに離れないでお互いを想ってて……。素敵ですよ。俺達は貴方達を父と呼びたい。なあ、藤」

「うん、兄さん。僕達が2人を守るから、だから、僕達を2人の子供にしてください!!」

真剣な兄弟の表情に、雅も、秋斗も、大柳も、何も言えない。
そして、雅は秋斗とアイコンタクトをする。

「ホントにいいんだね?」

「「はい!」」

「わかった。『親子』には今の法律じゃなれないけど、君たちを引き取るよ」

パァァァッと嬉しそうにお互いの顔を見つめあって、大木兄弟は「よろしくお願いします!!」と元気よく頭を下げた。

そして、しばらくして。
秋斗と雅は大阪市にある高級マンションのある部屋を買う。
超人気天才有名作曲家には安い買い物だった。

パートナーシップもまた結び、そして、大木兄弟と暮らし始める。

大木兄弟は、兄の萩が15歳の中学3年、弟の藤が10歳の小学5年生だった。

萩がギターをやりたがったので秋斗は新品の、レジェンドというギターを買ってやった。
藤は以外にピアノが上手く、作曲にも興味を持っていたので、雅は仕事の合間に色々教えた。

自分達を『父』と呼び、慕ってくる大木兄弟は秋斗と雅にとって、かけがえのない、大切な、存在になった。


ーENDー