秋斗と雅の子供ー兄 萩ー

秋斗と雅の子供ー兄 萩ー


俺と藤は、俺が13歳、藤が8歳の時に両親が交通事故で死んで、他に身寄りが無かったから児童養護施設に預けられた。

そんな俺達を、両親が死んだ2年後に引き取ってくれたのは、同性カップルの楠木秋斗さんと玖木雅さんだった。

俺達は、彼らが児童養護施設を訪れる前から2人を知っていた。

ちょうど、両親が死んだ直後くらいの頃だと思う。
施設で年末の歌番組を見ていた時。
俺達は若い作曲家の書いた曲に引き込まれた。
その曲を歌う歌手の歌声にも惹かれたけど、でも俺達はその繊細で情熱的な旋律にどうしようもなく惹かれた。

そして、俺達は作曲家、玖木雅の曲にハマる。

彼の素性を調べていると、彼が同性愛者だと言う事を知った。
最初は俺も藤も困惑したけど、彼がある番組で、

「俺はアイツしかいらないんです。アイツのためなら作曲辞めますし、死ぬことすら出来る。だからアイツを悪くいうのはやめてくださいね」

と言い放っていた時の悲しい表情に、俺はこの作曲家を一生推していこうと思った。

それは弟の藤も同じで。

俺と藤は玖木雅さんと、そのパートナーの楠木秋斗さんの所属していたバンドの«sins»にどっぷりハマっていく。


「兄さん兄さん!!雅さんと秋斗さん、うちに来るんやって!!」

ある日、藤は興奮気味に俺の元へ駆け寄ってくる。

聞いた話によると、雅さんと秋斗さんは里親になりたいらしく、自分達の元で一緒に過ごしてくれる子供を探していて、東京からはるばる大阪のこの施設まで来るのだとか。

施設長と奥さんが楽しそうに話していたのを聞いた藤が飛んできて俺に報告する。

「な、な、僕達であの人らの子供にならん?!」

「ええなぁ、立候補しよか!!」

「うん!!」

そして、その日は来る。

子供達はしばらく部屋か庭にと、追いやられていて、施設のリビングで施設長と2人が話しているのを俺達は盗み見る。

直に見る2人は割とがっしりした筋肉質な身体つきで、タイプの違う整った顔をしていた。
そして、とても優しそうな笑みを浮かべている2人だと、俺達は思う。

「「あの!!」」

俺達は堪らずリビングへ乱入する。
大人達は驚き、そして、困惑していた。

「萩、藤、どうした?ああ、お2人、この子達は大木萩と大木藤、兄弟です」

施設長は俺達の名前を2人に説明した後、「悪いが、もう少し部屋か庭で……」と俺達を出ていかそうとした。

でも、俺達は食い下がらない。

「お2人は里親希望なんですよね?」

「だったら僕達を2人の子供にしてください!!」

「「「え?!」」」

突然の俺達の申し出に、大人たちは困惑する。

「彼らがさっき言うてた兄弟でして。玖木さんの曲が大好きなんですよ」

「«sins»も好きです!!」

施設長がいち早く冷静さを取り戻し、そう言ったやつに被せ気味で藤が叫ぶ。
藤は興奮で鼻息が荒かった。

「凄く、凄く憧れてて、今日来るって聞いてたから楽しみで……だから、だから、俺達を貴方達の子供にしてください!!」

お願いします!!
俺達は頭を下げる。
すると、雅さんは俺達の元に歩み寄り、膝を折って俺達(特に俺より小さい藤)に視線を合わせる。

「……気持ちは嬉しいよ。でも、俺達の子供になるなら、少し覚悟が必要だよ?」

「覚悟……」

「……俺達は同性カップルで、世間から見たらまだ少数で、『普通』じゃない。だから、俺達の子供になったら、周りから色々言われるかもしれない。それでも、俺達の子供になりたい??」

その悲しい問いかけに、俺達は真剣に雅さんを見つめる。

「……俺達は貴方達の生き方も尊敬してます。少数派で、色々言われた時期だってあったのに離れないでお互いを想ってて……。素敵ですよ。俺達は貴方達を父と呼びたい。なあ、藤」

「うん、兄さん。僕達が2人を守るから、だから、僕達を2人の子供にしてください!!」

雅さんは振り返り秋斗さんとアイコンタクトをして、また俺達に向き直す。

「ホントにいいんだね?」

「「はい!」」

「わかった。『親子』には今の法律じゃなれないけど、君たちを引き取るよ」

優しく微笑む2人に嬉しくなって、俺達はお互いの顔を見つめあってから、「よろしくお願いします!!」と元気よく頭を下げた。


それからしばらくして、秋斗さんと雅さんは大阪市のある高級マンションを購入して、俺達と共にそこに移り住む。

「え、眺めやば!!」

「兄さん!!風呂めっちゃ広い!!てか、全体的に広い!!!やばい!!」

俺達はその部屋の豪華さに興奮が隠しきれない。
あちこちまわって今度はリビングで眺めを堪能する。

「え、作曲家ってこんなすごいとこ買えるくらい儲かるんですか?」

「雅は売れっ子だしな。俺の給料の何倍ももらってる」

秋斗さんは、「俺の立場よ」と笑う。
それを自分達の温かいブラックコーヒーと、俺達の温かいカフェオレを入れながら聞いていた雅さんは、「まさかここまで売れっ子になれるとは思わなかったよ」と笑う。

「はい、片付け前にちょっと休憩しよう。移動も疲れただろ?」

雅さんはリビングのローテーブルに全員分の飲み物を置いて、まだ興奮冷めやらない僕達をソファーに座らせてから、自分達もソファーに座る。

施設は大阪市から少し離れた田舎にあって、施設からここまでは秋斗さんの運転で来た。
派手髪にピアスの秋斗さんの運転は初め怖かったけど、意外に安全運転で安心した。

でも、やっぱりちょっと疲れた。

ふうふうと冷ましてからカフェオレを飲む。
カフェオレの甘さが、すぅ……と身体に染み渡っていく。

「なんか欲しいもんあったら遠慮なく言えよ?大抵のもんなら買えるし」

「遠慮はいらないからね」

2人があまりに優しく微笑むから、自分のホントの父の優しさを思い出す。
俺達は言葉に甘えて、俺はギターを、藤はかねてから欲しがっていた、犬(シーズー)を購入してもらうことにした。

犬を飼うこと自体に2人は賛成したが、「命だから中途半端はすんなよ?」と忠告されて、俺達は覚悟することにした。
幸い、マンションはペットOKだった。


しばらくして、俺は秋斗さんと楽器ショップに行った。

「どれがいい?」

「秋斗さんはどれ使ってたんですか?」

「オレ?オレはギブソンだから、ここらかな」

その『ギブソン』と呼ばれたギターのフォルムには惹かれたが、値段を見てぎょっとする。

「たっか!!」

「中学生には荷が重いか?」

「無理。絶対傷つけただけで死ぬ」

「大袈裟w」

ケラケラ笑う秋斗さんは場所を移動して、まだ低価格な初心者向けの『レジェンド』と呼ばれるギターを手に取る。

「ここらならお前でも気軽に使えるだろ」

「でも、ホンマにええんですか?ギターとか、ましてや犬とか、高額やのに」

「いいよ。オレ達はこれくらいしか出来ねぇし」

そんな悲しそうな目をしないで欲しい。
俺も、藤も、貴方達が大好きなんだから。

そして、俺は『レジェンド』の赤と白のボディーのギターを買ってもらう。

家に帰ると、「おかえり、いいのあった?」と微笑む雅さんに、「ギブソン買ってやるつもりだったけど高くて怖いからって安いのにした」と秋斗さんは笑った。

藤が見せろとせがむので見せびらかすと、あいつは「おお!すげー!!ギターや!!」と騒ぐ。

早速秋斗さんが優しく教えてくれた。

彼らは優しい。
いつも、優しく見守ってくれてて、勉強は教えてくれるし、色んなとこに連れて行ってくれるし、なんでも買い与えてくれる(俺達が申し訳なくて大抵拒否するけど)。

たまにやってはいけないことわやするとキツく叱られるけど、暴力も振るわない。

俺達は彼らを誇りに思う。

「そろそろ敬語やめて欲しいなー」

それは彼らと暮らし始めて5ヶ月が経った初夏の事だった。
俺は高校に入学して、藤も小6になった6月に、雅さんは愛犬、ナナ(♀)を撫でながら言う。

秋斗さんも、「同感ー」といたずらっ子みたく笑う。

「え、じゃあ『父さん』とか『親父』って呼んでもええ?」

2人は俺の発言にびっくりしてから、泣きそうな顔をして、頷く。

それから、俺は秋斗さんを『親父』、雅さんを『父さん』と呼び、藤は秋斗さんを『父さん』、雅さんを『お父さん』と呼ぶようになり、ホントの親子のように、暖かい家庭を築いていく。


ーENDー