平和に行きましょう。
8月、『好き』が決壊する(慶人視点)
8月、『好き』が決壊する(慶人視点)
長めの、幸せな夢を見ていた気がしたけど内容を忘れた。
多分冬樹が出てきて、俺に笑いかけてくれたかなんかだった。
俺は移動時間を睡眠に費やし、冬樹にもうすぐ新大阪だからと起こされて目を覚ます。
そして、ねむた目を擦りながら会場の最寄りまで行き、コインロッカーにスーツケースを入れて、昼食を食べにファミレスに入る。
冬樹は普通を装っていたけど、なんかぎこちなくて、やっぱりあの時のことを引きずってるんだと悲しくなった。
なあ、頼むから。
俺の前からお前は居なくならないでくれよ。
物販時間になって、列にならんでグッズを買い、会場の中に入った時だった。
冬樹が叫ぶ。
聞きたくない、名前を。
「雅さん!!秋斗さんも!!」
「ん??ああ、冬樹!あれ?慶人も??」
「ん?慶人って、お前の弟の?……え、めっちゃ似てるな??」
前方に兄さんと秋斗さんがいて、冬樹が声をかけると2人して振り返る。
2人は「なんで?どういう組み合わせだ?」と首を傾げてしたから冬樹が事情を説明する。
少し前に知り合って、仲良くしてるんだ。と。
「こっちくるなら言ってくれたら良かったのに」
「雅さん達忙しいかと思って」
「もしかして、泪が譲ったってチケットお前らか?」
「らしい。そっちは?」
「うちはなずな側からの経由」
ああ、楽しそうな、嬉しそうな顔してさ。
むかつく。
「……慶人さん?どこ行くの?」
「ちょっと煙草」
見てたくない。
同じ空気を吸いたくない。
息が、できない。
俺は逃げるように喫煙所に向かう。
喫煙所には2人が既に居た。
すー……ふぅ……
少し、息ができる。
「よお」
「!?」
隣にやってきて声をかけてきたのは、兄さんのパートナーの秋斗さん。
何故か妙にニヤニヤしながら、秋斗さんは慣れた手つきで煙草に火をつけ、俺の隣に居座る。
「……なんすか」
「お前、成人してたっけ?」
「……22ですけど」
「あー、童顔か」
くっっっそ、むかつくな?!
そんな事言いに来たのかよ!!
俺はあからさまに嫌な顔をする。
そうだ、今日髭ないんだった。
「安心しろ、冬樹のあれはもうただの憧れだよ」
「……は?」
俺が困惑していると、秋斗さんは思わず見惚れるような男らしい笑みを見せる。
それがどこか冬樹のそれを重ねて、思わず胸が高鳴った。
「冬樹の事、好きなんだろ?」
「は?!!な、なん、は!??」
秋斗さんは「はい図星ー!!」と楽しそうに笑う。
「……見てりゃわかるよ。お前さっき嫉妬してる時の雅と同じ顔してたから。やっぱり似てんのな」
「………………でも、冬樹は、」
「だーかーら、雅への感情は憧れなの!!間違ってたらオレを殴っていいから今日告れば??見ててやきもきするわ」
「は、はぁ?!」
何を……。
でも、本当に、本当に『そう』なら??
もし、俺にも可能性があるのなら……。
でも、じゃあ、あのキスの後の『間違えた』は一体なんなんだよ。
もしかして、兄さんでも俺でもない、別の誰かが好きなのか??
ああ、もう。
こんなんじゃ、ライブ楽しめないじゃん……。
モヤモヤしたまま開演時間になり、俺はライブ会場に滑り込む。
一応、ライブ中はライブを楽しめたけど、隣にいる冬樹をチラチラと見ていた自分がいた。
「はー!!楽しかった!!」
「だな」
ホテルに戻り、夕飯を食べて部屋で寛ぐ。
交代で風呂に入ると、冬樹がベッドにゴロリと横になる。
「慶人さん」
「うん?」
「今日、ありがとう。一緒に来てくれて。嬉しかった」
「なに、死亡フラグ?」
冬樹は、あはは!と笑ってから起き上がり、冬樹のベッドの方を向いて座っていた俺に向かい合うように座って、息を吐いてから真剣な顔をする。
そして、何かを言おうとして、止めて、言おうとして、また辞める。
真剣な顔にドキリ……。
心臓が脈打つ。
何を、言われるんだろう。
「……まだ、死ねないよ。慶人さんに謝ってないし」
「……あれは、俺も悪いし……」
「気持ち悪かったでしょ?ゲイ公言してる奴にいきなりキスされて」
そんなわけない。
俺は嬉しかったんだ。
俺は一か八か本音を言うことにした。
「……嬉しかったよ。俺、あの、お前が、す、好きだから」
顔が熱い。
冬樹を見れない。
でも、どうか、拒絶しないで。
「へ??え??す!?ええ?!!」
冬樹は、好き??俺を??慶人さんが??え??ええ?!!と繰り返す。
顔は真っ赤に染まっている。
え、この反応、って、もしかして……。
「……っ!」
もしかして、と思っていたら冬樹にキツく抱きしめられる。
心臓、鳴りやめ。
お前22だろ。なんでこんなことで爆発してんの。
俺はおずおずと冬樹の背中に手を回した。
「…………嬉しい」
「……お前兄さんが好きなんじゃないの」
「……今は慶人さんが、好き」
冬樹は少し離れて、俺を見つめ、頬に手を伸ばす。
その表情が熱を帯びていて、たまらなく胸を熱くした。
「……俺で妥協するっていうのなら許さねぇから」
「俺は慶人さんがいいんだよ。信じて」
真剣な目で見つめられたら、もう、信じるしかない。
俺も冬樹の頬に手を伸ばす。
「……キスしていい?」
「……して、冬樹……」
俺がそう呟くと、冬樹は俺を押し倒して深く深く、口付けてきた。
ーつづくー
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